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小説は書けない2

かつて、秋陽にとって一番落ち着く場所は静也の隣だったのに、今では一番息がし難い場所になってしまっている。  海鮮パスタを口に入れると、海鮮出汁が口に広がる。ほんのりと香るバターともちもちの麺が絡んで後味まで美味しい。  大好きなホタテの貝柱も柔らかくて、味が濃い。美味しい。  胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。目頭が熱くなって、俯いたまま無心で料理を口に運ぶ。  締め切り前でずっと部屋から出ていなかったから、きっとそのせいで気分が落ち込んでいるんだ。自分にそう良いわけをする。  料理の美味しさだけに集中していると、目頭の熱がじわじわと引いていく。  食事を終えたころにはすっかり気持ちは凪いでいた。先ほどのはやはり、小波だったようだ。 「……秋陽さん、締め切り明けたんですね」  背後から声をかけられて、秋陽の肩が跳ねる。振り返るとそこには、春日の息子である崇が立っていた。  去年大学生になった崇は、静也に負けず劣らず背が高く無愛想だ。 「……びっくりしたな。 なんで正面から入ってきたんだ?」  いつもならば従業員としてバックヤードから入ってくるはずなのに、珍しく店の玄関から入ってきたようだ。 「裏口のドア新しくするらしくて、今業者が来て取り替えてるんで」  崇は面倒くさそうに首に手を回す。崇はPRIMAVERAで長いこと手伝いをしているにも関わらず、人と接するのが苦手なようだ。  苦手というよりも、恐れている。それは崇が幼い頃に両親を事故で失っている上に、養母である冬美とも死別していることが原因だろう。  冬美が病で倒れたときに、春日と崇を支えてほしいと頼まれたが、結局秋陽には何もできていない。 「紅茶、飲みますよね」  何も言っていないのに、崇はキッチンに立つと慣れた手つきでティーセットを用意する。 「今日はパンナコッタもありますから」 「どんだけバックヤードいきたくないんだよ」  表情は変わらず平然としているくせに、行動の節々にバックヤードに行くまいとする思惑が透けていて笑ってしまう。  

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