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第8話

「あぁ、ほら、着いた。」 気が付けば、駅のホームが見えていて、線路からホームに上がれる非常階段にそっと降ろされた。 「ここからは、俺は行けない。紅、一人で行くんだよ。」 地に足がついても、現実に戻ってきた気がしなかった。 だって、彼の足元にはまだ爛れた手たちが彼を引っ張りたそうにしているし、髑髏(しゃれこうべ)の顎がカタカタとなる音が聞こえている気がする。 「次は迷わないようにな。」 そう言って、彼は此方に背を向け、線路を歩いていく。 一つ瞬きをした合間に、彼は暗闇に紛れるようにしてフっと消えた。 その後、どうやって帰ったのか覚えていない。 気が付けば、自宅のマンションのエントランス扉の前にいて、ぼうっと突っ立っていた。 なんだか狐につままれたような気分だ。 ありえないことに遭遇したはずなのに、実感よりも夢だったのではないかと思う自分がいる。 電車で寝てしまったから、そのまま夢を見て覚醒しきっていない頭で帰巣本能のように帰ってきたのではないか、そう思ってしまう。 でも、自分を抱いて運んでくれた彼に体温はあったし、どこへと手招いているのかわからない爛れた手も、カタカタと顎を鳴らしている髑髏も頭に残っている。 思い出せば、やっぱり怖くなってきて、カタカタと震える手で鞄から鍵を取り出す。 ガチガチと鍵穴を鳴らしながら、やっとのことで鍵を差し込めば、確かな手ごたえとともに鍵が開いた。

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