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第7話
ゆらゆら。
ゆらゆら。
心地良い揺れが浮上した意識を眠りに誘う。
頑張って瞼を持ち上げれば目の前に人の顔があって眠気も何もかも吹っ飛んだ。
吃驚して体が強張ったのを感じたのか、心地良い揺れはぴたりと止まって、顔がこちらを向いた。
「なんだ、起きたのか。もう少しで戻れるから待ってくれ。」
やけに耳心地の良い声がそう告げる。
今の自分の格好はとてつもなく恥ずかしい。成人男性がする成人男性のお姫様抱っこなど、側から見れば視界の暴力だろう。
「あ、えっと…。自分で歩けるので下ろしてくれますか?」
「駄目だ。」
にべもなく却下された。
「俺の足元を見てみろ。」
そう言われて、不本意ながら彼に抱かれたまま足元をちらりと覗き込む。
彼の足元には、彼の足を掴もうとする黒い影のような手やら骨の手。
爛れたような手、手、手。
噛みつこうと顎をカタカタと鳴らしている髑髏達。
時折、睨みつけるように此方を睨め付けている。
生まれてこの方、幽霊やオカルトなど見たことも感じたこともない俺には視界の刺激が強すぎた。
身体ががたがたと震えだし、思わず彼の首に腕を巻きつけ体をぎゅっと彼にくっつける。
「ひっ...。」
「すまない。怖がらせるつもりはなかったのだが...。
まあ、つまりそういうことだ。俺から離れるとこいつらに掴まれて戻ってくることが出来ない。申し訳ないが、もう少し我慢してくれ。」
「あ、あぁ。分かりました。」
大人しく彼に運ばれるまま移動した。
吃驚したら眠気も覚めて、この状況にどうしてなったのか気になった。
抱かれたまま、彼に質問を投げかけた。
「あ、あの…。なんで、俺はこんなところで貴方に運ばれているのでしょうか…。」
「それは、お前が電車に乗って此方の世界に来てしまったからだな。」
「此処は何処なんですか?」
「此処か?此処は、お前たちの言う死後の世界とでも言うべき処かな。」
「えっ?俺、死んだんですか?」
「ん?あぁ、紅(コウ)は死んだんじゃない、間違って迷い込んでしまっただけだ。」
「あれ?俺のこと、知ってるんですか?」
「あぁ、知っているとも。うんと昔からね…」
それ以上、話したくなさそうな雰囲気に俺は口を噤んだ。
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