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②迅が不機嫌なんですけど ─雷─5
… … …
笑顔が下手っぴな迅は、羨ましいとか妬いちまうぜとかそんな感情を抱くことさえどうでもよくなるくらい、とにかくモテやがる。
放課後の秘密基地時間以外で迅と過ごすなんて、今までは数える程度だった。
聞くところによると、迅はダチの誰と居ようが女を理由に途中で抜けるらしい。 それは俺も何回か目にしてたし、迅のモテっぷりは、憧れられてるって意味では男女問わないのも知ってたし驚きはしなかった。
"リア充なヤリ迅だから" と括れば、ぜんぶが丸く収まるような漫画みたいな野郎だ。
それなのに、……。
「遅えぞ。 何やってた」
「何っておしっこだよ! 俺言ったよな? トイレ行くから先に靴履いてろって! なんで般若顔で待ってんだ!」
「般若顔言うなっつの。 遅えからまたアイツらに捕まってんのかと思っただけ。 雷にゃん頼まれたら断れねぇだろ」
「アイツらって??」
「翼の取り巻き」
「いや、ていうか、別に捕まってもよくね? 俺いつから迅のカノジョになったんだ? 送ってくれなくていいって」
そう……あの強制的に合コンを抜けさせられた日以来、なぜか俺の放課後は迅の監視下にある。
なんでって? 知らねぇよ。
放課後は必ず家までついてくるし、そうじゃなかったら迅の部屋に連れ込まれて暗くなるまでダラダラ過ごす。
最初は当然「??」だったのに、迅は全然興味無いって言ってたはずの漫画やらゲームやらがあるぞって、……釣られた。
「お前が寄り道ばっかするからだろ」
「寄り道って、俺はもふもふさんのところに行くくだけだぞ」
「違ぇよ。 アイツらとの事」
「はぁ??」
仏頂面の迅と並んで歩いてると、マジで俺のチビさが際立ってめちゃめちゃ嫌だな。
ただ制服着て薄っぺらい鞄を脇に挟んで両手をポケットに突っ込んでるだけで、ヤリ迅様は女という女の視線を集めてる。
女はこういう顔が好きなのか?
イケてるっちゃあイケてるけど、怖くない? 女はみんな、この顔に抱かれたいと思うのか?
「お前はただでさえ喧嘩に巻き込まれやすいんだから、俺が見張ってやってるんだ。 ありがたく思え」
横目でチラチラ見てると、いきなり迅がこっちを向いてビビった。
しかも何だって?
俺は喧嘩に巻き込まれやすい?? 見張ってやってるぅぅ??
聞き捨てならねぇっ。
「俺そんなに弱くねぇっての! 見せた事あんだろ? 俺の華麗な脛蹴り!」
「あぁ、見た見た。 あの華麗なお遊戯会みてぇな蹴りだよな?」
「お遊戯会ってなんだよ!! ほんとに効くんだぞ! 今すぐ試してやろーか!」
「いやいい。 遠慮しとく。 骨折れたら大変だしな」
「それバカにしてんだろ!!」
「…………してねぇ」
「だいぶ間があったな!?」
クッソぉぉ。 俺の脛蹴りバカにしやがって。
また下手っぴな笑顔でクククッて笑ってるよ。 笑顔なんて見せても減るもんじゃないのに、わざわざ向こう向いて肩揺らしてるってどういう事なんだ。
俺には見せらんねぇくらい笑顔が不細工なのか? そんな事で俺、笑ったりしないのに。
「今日お前が来るかもって、ばあちゃんがおはぎ作ってるらしいぞ」
「え!? マジで!? やったぁぁ! だから今日迅からのおやつが無かったんだな!」
「俺をあてにするな」
「それどの口が言ってんの?」
男子高校生たるもの、放課後は腹ぺこなもんじゃん?
無駄なもんばっかり買っていつも金欠な俺に、翼は校外では色々奢ってくれるけど見返りにエロい事してくるからヤだったんだよな。
それがいつからか迅が用意してくれるようになって、翼いわく迅が俺を「餌付け」してるんだって。
はて……なんの事やら。
「ていうかぁ、メッセにそう書いとけよ。 迅のは分かりにくい」
「おバカなお前でも分かるように簡単に書いたつもりなんだけど。 あれでも理解出来ねぇ?」
「理解とかその前に意味不明だった!」
秘密基地に集合する前、クラスが違う迅からこんなメッセージがきた。
"俺ん家な。 おはぎ。"
……短いんだよ。 簡潔過ぎるんだよ。
これでどうやって理解しろっての?
最後の「おはぎ」なんてマジで意味不明で、迅がフリック操作間違えて誤送信したのかと思ったんだけど。
「あれ以外にどう書けっつんだよ。 俺の優しさが伝わってねぇとは悲しい。 バカでも分かる変換ツール欲しいな」
「おい!! それはバカにしてるって分かったぞ!!」
「おぉ、賢いじゃん」
「はぁ!? お前ほんとムカつくなー! ばあちゃんのおはぎ無かったら帰ってるとこだぞ!」
「それは駄目。 雷にゃんは俺がオッケー出すまで自由行動禁止」
「えぇ!? 俺いま修学旅行中!?」
「は?」
なんだよ自由行動禁止って。
まったく。 迅まで先輩と同じような事言いやがるようになってる。
また顔隠してクククッ……だし。
そんなに面白いなら声出して笑えよ。 スカしてるように見えるぞ。
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