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④監視が強化されたんですけど ─雷─7
… … …
背中、ってか右の肩甲骨が痛ってえ。
鉄パイプで殴られたのなんか生まれて初めてで、迅が助けに来てくれなかったらあのまま袋叩きにあってたと思うとブルっちまう。
俺の "トロ顔" とやらで一発抜いてなきゃ、一発も食らわなかったかもしんねぇのに……と俺が揶揄う前に、迅はコッソリ自分で自分を責めてる感じだった。
「……痛むのか」
「ん? うん……」
明日も普通に学校なんだけど、「そんな状態で帰すかバカ」ってヤリ迅に悪態吐かれた俺は今、迅のベッドでうつ伏せになってあっち向いたりこっち向いたりしている。
背中の痛てぇとこに迅が湿布貼ってくれたはいいけど、まず天井向いては寝らんなかった。
しかも、しかもだ。
俺がこっちに引っ越してきてからずっと追いかけ回してたもふもふさん──通称もっさん──が、すぐそこで子猫たちと寝てんだぞっ?
背中の痛みよりそっちの方が気になって気になってしょうがねぇのよ。
「可愛いなぁ……あの中からすぴーって聞こえる……」
迅がダンボールで造った即席のにゃんこハウスの中で、もっさん親子はスヤスヤ眠ってる。
野良にゃんこだから病院行って病気とかをちゃんと調べてもらうまで、あんまり近寄るなって迅に言われたから……モフるのすんげぇ我慢してんだけど。
あ〜〜でも触りてぇ〜〜。
だってもっさん親子マジで可愛いんだもん〜〜♡
「明日、学校休んでもっさん達病院連れてくから」
「あ……マジで?」
「こういう事は早い方がいいだろ。 雷にゃんも動けそうなら来いよ」
「うん、分かった。 ……なぁ、迅……」
「ん?」
寝てるもっさん達に気を使って静かに穏やかに喋る迅は、いつもよりイケボに磨きがかかってる。
相手が三人とか五人とかだとマジであっという間に倒しちまう、ガチ強え迅に俺はこれまでも何回助けられたか分かんねぇ。
ピンチの時、漫画のお約束みたいに颯爽と現れては迅速かつ爽やかに数分で敵を倒すなんて、俺の知ってるダチん中じゃ迅が間違いなく一番強い。
なんであそこが分かったのか知らねぇけど、すかさず現れた迅のイケボがまだ脳ミソをかけ巡ってる。
もっさん達のことだってそうだ。
俺が離れがたいの気付いてくれて、四匹も引き取ることをあの場で即決した。
一刀両断、名刀使いの迅之助はどこまでもイケメンだ。
「……ほんとにありがと。 俺のことも、もっさん達のことも、マジでありがと。 俺も協力すっから。 迅にだけ負担かけたりしねぇから」
少しだけ体を起こして、横になってる迅を見つめた。
マジで感謝してる。
昨日はひねくれ迅が参上してたせいで俺の力説が通用しなかったけど、今日は本気の本気だから絶対に伝わってるはず。
ほら、迅が笑った。
キラキラって感じの笑顔ではねぇが、ニヤッと笑ってくれた。
「……お前がそんなだと気持ち悪りぃ通り越して寒気がするな」
「なっ……!? なんでだよ!! 俺は真剣に言っ……ッッ」
「シーッ。 もっさん達が起きんだろ」
冗談だ、と俺の口を塞いだ迅の手のひらに、今日こそ噛み付いてもいいよな?
俺はこんなに、どれだけ束バッキーで理不尽な監視をされててもおとなしくしてるのに、迅は全ッッ然それを悪いと思ってねぇ。
あ、もっさん達居んのにいま大声出したのは俺が悪いけど。
でも迅の冗談は質が悪りぃだろッッ。
「雷にゃん、そんなに俺に感謝してんならキスくらい出来るよな?」
「え!? はっ!?」
い、いきなりどうした!!
しんみりなムードを一変させた迅の言葉に、俺の心臓が口から飛び出るとこだったぞ!!
何時間か前に濃厚な体験をしてしまったせいで、ただでさえ自由のきかない体がアレを思い出してピシピシッと硬直した。
「えっ……いや、……それはムリ!」
「……またそれかよ」
「だってさっきやった時マジで頭が沸騰しそうだったんだよッ。 今は盛り上がりが必要な雰囲気でもねぇし!」
「てか、雷にゃんが負傷してっから俺今日頂けなくなったんだけど」
「あ……! あれ晩メシの話じゃなかったんだよな!? どういう意味だったんだよ!」
小声で、必死で、アピールした。
キ、キ、キ、キス、なんて出来ねぇ。
「頂きます」の意味も分かんねぇ。
謎の台詞を乱れ撃ちされた俺の童貞ハートが、もう壊れかけ寸前。
昨日ドラキュラ迅に付けられた痕まで疼いてる気がした。
アピールしながら迅と距離を取って、ベッドの端っこスレスレまで逃げると般若は濃い溜め息を吐く。
今日何回その「はぁ、」を聞いたか。
「……はぁ……。 その分じゃ、雷にゃんのこと欲しいって言った意味もまだ分かってねぇ感じ?」
「も、もう充分だろッッ」
「は?」
「俺はいま絶賛、束バッキー迅の言いなり中で、毎日毎日オモチャにされてるじゃん!」
「……オモチャねぇ……」
「俺は……ッ、俺は、お前としかああいう事してねぇのに、すぐ般若になって俺を困らせてくんじゃん!」
「困らせてるつもりはねぇ。 雷にゃんがクソほど鈍いだけだろ」
「うるせぇぇッッ! 誰が早漏ニブチン○だ! あ痛ててて……っ」
「んな事、思ってても言ってねぇ。 いいから黙って目瞑れ」
「えっ、? なんで……んんむッ」
悪口のオンパレードにキレかけた俺の後頭部が、大きな手のひらにガシッと掴まれた。
直後、目にも止まらぬ早さでグイッと引き寄せられて、顔を傾けた迅の唇と俺の唇が……くっついてしまう。
これは、さっきも頭ン中で花火が舞ったキ、キ、キ、キスってやつじゃねぇのか……ッ?
やめろ。 ムリ。 出来ねぇ。 盛り上がんなくていい。 無理強いなんてヒドイ。
男同士で、ダチ同士で、こんな事はダメだって一刀両断してくれよ、迅之助。
俺は拒めねぇんだよ。
迅を突き飛ばしたくても、背中が痛くて肩に力が入んねぇから……。
「毎日キスしてたら分かる。 お前を困らせてるだけじゃねぇ事も、お前を欲しいっつった意味も、俺が猫派なワケも」
「ふぁ……♡ ン……っ、んんッ、迅……っ、ベロはやめ……ッ……んっ♡」
聞く耳をどっかに落としたまんまの迅は、体を起こして俺を抱き上げると、さらに濃いベロチューをかましてきやがった。
抵抗出来ねぇ俺の唇を、これでもかとちゅっちゅっしてくるヤリ迅テクに下半身がムズムズした。
気付きたくなかったけど、口の中と耳を舐められるのは一緒くらい気持ちいい。
抵抗なんかする気が起きなくなる。
そんで分かったことがもう一つ。
昨日に引き続き、俺のアピールは無駄に終わったってことだ。
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