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⑥判明したんですけど ─雷─⑦

… … …  高校三年の秋、俺はついにオトナの階段をのぼった。  男と色んな初体験をしてしまったあげく、それは出会って半年のダチ。  〝ヤリチン〟と〝シチュエーション〟にやり込められた感満載だし、この手のことに興味が無かった童貞男子の裏をかかれた気がしなくもない。  でもま……相手が迅ならいいかなって感じ。  根拠は無え。 後先も考えてねぇ。  伝説保持者のヤリ迅の言葉を鵜呑みにするのは特別警報もんだが、女の代わりではないってハッキリ言ってくれたから、俺は迅の気持ちを信じる。  なんつーか、迅に女が途切れなかった理由が分かっちまったもんな。  カノジョじゃないただのセフレ相手に、その気を持たせるのがすげぇ上手いんだもん。  顔良し、声良し、スタイル良し。 喧嘩も強くて、こっちがおとなしくしてたら存分に甘やかしてくれる、五拍子揃った迅。  いやコイツに限ってはそれ以上にイイとこ盛りだくさん。  そんなの、女が夢中になんねぇはずないって。 「おはよぉ」 「あっ、先輩! おはよーございます!」 「……っす」 「迅ッ、ちゃんと挨拶しろよ! 一文字で朝の挨拶完結するってのはどうかと思うぞ!」 「まぁまぁ。 雷は朝から元気ねぇ」  セフレ契約を結んだ次の日の朝、パンツスーツに身を包んだ修也先輩と宿前で落ち合った。  今朝は女バージョンでの登場だった先輩は、バッチリメイクに茶髪ロングのくるくるウィッグをポニーテールにして、若干肩幅広めだけどなかなかの長身美人。  なんで先輩がこの姿で居るのかって言うと、今から開店前のお店を見に連れてってくれるんだ。  まだ二十歳なのに店長に抜擢されたなんてマジで尊敬。 俺の引っ越し先で新しい店舗がオープンするってのは、偶然過ぎて怖え。 「アンタ達、昨日買ってた朝ごはんは食べたの? あたしは朝食あったから良かったけど」 「うっ! あっ! 俺たち腹減ってないから昼メシと一緒でいいかなって!」 「そう?」  朝メシにと昨日買っといたおにぎりは、迅が持ってるコンビニの袋に入ったまま。  なぜなら、チェックアウトの時間ギリギリまで迅にいじくられたせい。  新たなセフレを手に入れた迅は、俺が目覚めた瞬間から不気味なくらいご機嫌だったんだよ。 『おはよ、雷にゃん』 『うー……? んー……。 迅、おは……ひゃッ♡』 『昨日三回も抜いたのに朝勃ちしてんの』 『あっ、だめだ! 朝は俺、特にビンカンで……やんッ♡』 『可愛いな』 『ちょっ、ちょっと待て! 朝からデカチン迅様を押し当ててくるな!』 『雷にゃんが寝落ちすっから俺は一回しか抜いてねぇんだ。 ギンギン当たり前』 『うぅぅーー!! だってあんなコトやこんなコトで俺、頭パンクしちまって……ッ』 『だよな、分かる。 雷にゃんは寝顔まで可愛いからさ、寝込み襲う気も失せて俺もあれからすぐ寝た。 こうやって……抱き枕にしてな』 『あぁ……っ♡ 迅、ッ……ギュッてすんの、好きなのか……ッ?』 『いや、別に。 でも雷にゃんだから』 『んんっ♡ はぅッ♡』 『抱きしめられんの、雷にゃんも好きだろ?』 『え……ッ? 俺が……?』 『好きだからって、俺以外のヤツにさせるなよ。 もち、翼にも』 『あッ♡ 迅っ……朝はビンカンなんだってばぁぁーー!!』  ──セフレ契約の威力を甘く見てた。  昨日散々俺のちくびをもてあそんだ甘々カレシが、今日も健在中。  そんなこんなで朝からシコシコされて、俺の腹に散った二人分の精液を洗い流すためだけに激アツ風呂を使用した。  なんて贅沢なんだと思いながら。  夜とは全然違う、爽やかな空気と目の前の森林に目を奪われるヒマもなく、そこでも迅はイケメン面で俺をいっぱい抱きしめてきた。  俺とセフレになれたのがそんなに嬉しいのかって、思わず聞いちまいそうになるぐらい迅の機嫌がすこぶるイイ。  分かんねぇでもないけどな。  だって、迅は何ヶ月もずっと〝セフレになりたい〟願望を匂わせてきてたのに、俺はまったく気付かないでいた。  〝末っ子気質を発揮した迅は世話が焼けるなぁ〟、〝地雷が分かんねぇから難しいヤツだなぁ〟……という、迅にしてみればかわいそうな勘違いをしていた俺だ。  もっと早く気付いてやれてれば、迅が性欲モンスターにならずに済んだのに……。 「──雷〜? まだおネム〜?」 「へっ!?」  見た目も口調もまるで女に変身した先輩に、顔を覗き込まれてハッとした。 「なんか顔赤くない? 雷、だいじょーぶ?」 「風呂熱かったからな。 のぼせた? 水飲むか?」 「い、いや、だいじょぶ! んへっ」  ほんのついさっきまで、おばけの心配が無い開放感溢れる露天風呂でギュッ、チュッ、ギュッ、ってしてたのを思い出すと、顔面が熱い。 おまけに心臓のチクチクも引き摺ってて、迅のイケメン面が見らんねぇ。  なんとなく優しく聞こえる迅のイケボとカレシ並みの気づかいは、たぶんセフレを途切れさせないコイツなりのテクニックなんだ。  動揺してどうする、俺。 「昨日言い忘れてたんだけどぉ、うちの新しい店舗ってこの辺で一番大きなモールの中にオープンするんだよねー」 「えっ、モール? それって、迅がバイトしてる店が入ってるモール?」 「そうそう〜。 迅クンが働いてるお店って、メンズファッションブランドが集中してる三階のエスカレーター前にあるでしょ?」 「……そうっすけど」 「うちの店は二階なのぉ! しかも、charmantの真下!」 「へぇ……」

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