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⑥判明したんですけど ─雷─⑨

「なっ? ななな、な、なッ!?」 「そんな分かりやすい反応ある?」  こんなに強え力で握ってくるってことは、俺のよだれかけ問題よりも大事な何かを勘付かれたんだ。  ヤンキー時代を思い出させる先輩の睨みに、動揺しっぱなしの俺が太刀打ちする術は無え。  焦りまくって、左手に持ってたフォークを床に落とした。 掴むのをやめてくれたのはいいけど、先輩の顔は超絶キレ気味。 「こっちに来てから、雷は迅クンに世話してもらってたんでしょ? ていうか、それだけじゃないんでしょ?」 「せ、世話って……ッ」 「雷のトモダチは世話って言い方で合ってるわよ。 ……まったく。 二年間のアタシの努力を返してほしいわ」 「……なに? 先輩何が言いてぇんだよ」 「これよ」 「ギャッ!?」  鞄の中から取り出した四角い手鏡をパカッと開いて、俺に向けてきたそこに映ってたもの。  迅が付けた肩のタトゥーを隠したくてシャツのボタンをギリギリまで留めてたってのに、似たようなポッチが喉仏の近くにあった。  全然隠れてねぇそれは物凄い存在感を示してる。 「それ、どういう事か説明しなさい。 夕べは無かったわよ、ココには」 「迅のヤツぅぅ! いつの間に首にもタトゥー付けてんの!?」 「……タトゥー?」 「赤いポッチだよ!! この服じゃ見えねぇかもしんないけど、ここからここまでビッシリ彫られたんだ、タトゥー!」 「アンタ……それ本気で言ってんの?」 「何が!!」 「タトゥーじゃないわよ、これ。 キスマークよ、キスマーク」 「キッッ!?」  これが!? これが、かの有名な〝キスマーク〟!?  なんで!? 俺に彫られたのがぜんぶ、……ぜんぶそれだっての!?  目ン玉ひん剥いて驚いた俺は先輩から手鏡を奪うと、キスマークってやつを何十秒もジロジロと確認した。  カレシから付けられて喜ぶ女を何人も見てきた俺としては、パニック寸前だったんだ。 「迅クンと雷は付き合ってんの? 昨日すんごい敵対心剥き出しだったよね」 「敵対心〜〜!? 俺そんなの出してな……ッ」 「雷じゃなくて、迅クンよ。 迅クンがアタシを肉食獣みたいな目で見てきたの」 「…………ッ? なんで?」 「そんなの聞かなくても分かるでしょ」 「………………ッッ??」  分かるでしょ、って。 分かんねぇから聞いてんのに。  俺の手から鏡を奪い返した先輩は、自分のメイクとか前髪とかを女子ばりに確認してる。  キスマークにビビってる俺とは違う、ただ身なりを整えてるだけの先輩を、チクチクが増した心臓を押さえて見つめた。 「……で、昨日の夜も燃えちゃった感じ? 雷が言わないんなら、迅クンぶっ飛ばして吐かせちゃおうかしら?」 「えぇ!? やめろよ! 先輩と迅のそういうとこは俺、見たくねぇんだって!」 「そんならグダってねぇで白状しろっつの。 俺そんな気長くねぇの知ってんだろ」 「いきなり男ぉぉ!!」 「やめなさいよっ。 今アタシは、か弱いオンナ♡」 「〝俺〟って言ったじゃん! ドス効かせてたじゃん! ……んぐッ」  テーブルを挟んだ向こう側から、長い腕が伸びてきた。  慣れた手付きで俺の胸ぐらを掴むと、うるさい周りには聞こえないくらいの男声で脅される。 「あんまナメた事叫んでると、縄でケツビシバシの刑だぞ」 「怖ぁぁ!! ふぇぇんッ」 「よしよし♡ どちたの、ボクちゃん何が怖いの?」 「先輩、……変わんねぇなぁ……」  女装が趣味の先輩は、この姿の時は完全に女になりきってるから軽率なコトは言っちゃいけなかった。  でもさ……先に男出してきたのは先輩の方じゃん……。  俺がおののいたところに、どヤンキー炸裂されてぶん殴られるのかと思ったぞ。  着席したデキる女は、俺に向かってフフッと笑ってきたがとても笑い返しは出来ねぇ。  キスマークを見られた上に、迅との関係を白状しねぇと縄でケチをビシバシするって脅された俺は、何が正解か分かってる。 「……昨日、……迅と、契約を……結びました」 「契約? どんな?」 「……セフレ、……」 「はぁぁ!? セフレェェ!?」 「先輩!! 声デケェから! 今日、日曜日! ファミリー多々!」  シーッ! シーッ! 先輩、今はか弱いオンナなんじゃねぇの!?  そんな単語を、家族連れで賑わうモールのフードコートで叫ぶなんて俺よりバカじゃん!!  先輩は眉間に皺を寄せたまんまテーブルに肘をついて、俺は決して逃れらんねぇ追及の構え。 「その契約結ぶ前からタトゥー彫られてるじゃん。 ……迅クンから何て言われたの? セフレになれって? てか契約ってのがまず意味不」 「いやそれは言われてねぇけど……。 〝雷にゃんだから〟って。 俺、ちくびは絶対ヤダって言ったんだっ。 チビだけど俺は女じゃねぇから、代わりにされるのはゴメンだって。 そしたら、代わりにはしてねぇって言って、ちくび舐められて、……」 「…………乳首以外は? 何した?」 「セフレがすること。 ……たぶん」 「最後までヤったって事?」 「……うん……。 迅、腰の振り方エロかった。 なんか……ドキッてした」 「マジかよ……」  昨日の夜の事を思い出すと、自然と顔が熱くなる。  ヌきっこ大会なんかメじゃねぇくらい、やらしい体験をしちまったからな。  迅の甘々イケボとか、カレカノ疑似体験とか、ねちっこいキスとか、ちくびチュパチュパとか、……ちょっとまだ動揺が抑えきれねぇ。  ていうか、セフレ当事者は俺なんだけど。  なぜか男声で先輩が項垂れてる方が意味不じゃん? 「先輩、か弱いオンナがどっか行ってるぞ」 「いや今は無理。 ウィッグ取って髪グッシャグシャに掻きむしりてぇ」 「あー、やっぱウィッグは頭ン中 蒸れるんだ」 「違えよ! ったく、あの喧嘩上等野郎……ッ。 なぁ、マジで最後までしたのか? それにしちゃ雷、ピンピンしてねぇ?」 「ピンピンしてたらおかしい? どっちかっつーと、朝もシたからスッキリ」 「え!?」 「最後までってアレだろ? 太ももにアレ突っ込んでシコシコするやつ……。 ほら、俺には他のセフレみたいに挿れるとこが無えじゃん?」 「太ももぉ!?」  そんなに知りてぇならと、〝最後〟まで教えてやろうとしただけだ。  さっきの俺に負けじと目ン玉ひん剥いた先輩に、しっかり二回も頷いて見せた。  だってほんとのコトだし。 「そ、そうだけど」 「太ももかぁぁ、良かったぁぁぁ!!」 「……え?」  そうかそうか、と満面の笑顔で俺のサラサラ金髪を撫でてきた、不気味な先輩。  何が〝良かった〟なのか分かんねぇ俺は、先輩が見守るなかステーキを完食するまでトータル一時間を費やした。  迅が奢ってくれたもんだから絶対残すもんかという気合いだけで、かたくなった脂身を咀嚼した俺ってなかなかカワイイのかもしんない。

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