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⑦曲解 ─迅─
旅ってのはいいもんだ。
ほぼほぼ寝るだけの弾丸超特急旅だったが、あの雷でさえ呑まれる雰囲気とシチュエーションには相当助けられた。
俺の二つのミッションは無事クリア。
おまけに彼氏の座もゲットした。
乳首開発で丸め込んだ気がするのは気のせいだ。 結果オーライだしそう気に病む事も無ぇだろ。
束バッキー野郎がこっちに移り住むとか、雷をまた監視し始めんじゃねぇのって危惧とか、マジでどうでもよくなった。
俺が雷の彼氏だし?
雷を監視していいのは彼氏である俺だけだし?
誰も口出し出来ねぇ座を手に入れたからには、俺はそれを死守するだけ。
雷と付き合ってから、今日で十一日。
あの日から目に見えて俺を意識してる雷を見てるだけで、心もアソコも元気になる。
俺が何をしたら雷のツラが真っ赤になるかとか、もうもっさんを口実に家に誘わなくていいとか、そんな事を考えてたら一日があっという間。
じわじわ攻めてく草食系のヤツらの気持ちが分かっちまった。
この駆け引きはめちゃめちゃ楽しい。
「──なぁなぁ、迅さんよぉ」
「……なんだよ」
放課後、俺と翼はいつもの場所で溜まってダラダラとした時間を過ごしていた。
アイツ一人居ねぇだけでやたらと静かに感じる。
変なテンションで俺に話しかけてきた、今の今までスマホをイジってた翼と二人で過ごす時間が減ってた事に、今さらながら気が付いた。
「最近の雷にゃんおかしくね?」
「何が」
「そんな毎日家の用事があるって、絶対ウソだと思うんだけど。 俺寂しーよー」
「………………」
それを俺に言われても。
やけに静かに感じると寂しがってたのは翼も一緒だったらしい。
確かに雷は、先週頭からその理由を使いまくってる。
俺もさすがにウソじゃねぇかと疑ってはいるが、朝迎えに行っても拒否らねぇし、連絡すればちゃんと反応あっから避けられてはいねぇと思う。
ちなみに、もしかして……と頭によぎる事はある。
アイツらしからぬ照れっつーか、俺のそばに寄ると緊張するーみてぇな可愛い理由だったら、問い詰めるのは不憫じゃん。
翼にはンなこと言わねぇけど、雷の様子を見てる限り若干は俺の考察が合ってるような気がしないでもない。
「まだ一週間だろ」
「こんなこと今まで無かったじゃん。 迅が雷にゃんに何かしたんじゃねぇの? 明らかに避けてるだろ、迅のこと。 迅は〝迅雷カップルと呼べー〟なんつってたけどさ、それってお互い同意の上なわけ?」
「当たり前だろ。 一応そういう事になってる」
「でもさぁ、……」
「だいたいな、お前が雷にゃんにセクハラしたり俺にバカな要求してくっから、俺はコトを急いじまったんだよ」
「はぁ? それどーゆー事?」
なんで俺が雷から避けられるんだよ。 だとしても良い意味で、だろ。
思いっきり翼に責任転嫁した俺だが、これは根拠に基づいてる。
何もかも翼が引き金だっつーの。
「あームカつく。 アイツにはもっと順序立てて迫るべきだったのに」
「なになに? 何か俺のせいになってる?」
「翼が六割、俺が四割悪りぃ」
「雷にゃんがご機嫌ナナメなの、なんで俺のせいなんだよ? 手出したのは迅だろ? それ十割お前が悪くね?」
「……それも一理ある」
「あるんじゃねぇか」
舌ピアスをカチャカチャ鳴らして俺に突っかかる翼を、とりあえずジロッと一睨みした。
我慢出来なくて先に手出したのは俺に間違いねぇ。
ただそれをお前が言うかって話だ。
チビでバカで素直で女顔で猫好きで、派手髪のトラブルメーカーとしか思ってなかった俺に、雷の喘ぎ声を聞かせた翼の罪は重い。
人ひとり落とすのがこんなに大変だとは思わなかったんだからな。
下手なウソ並べて、バカ素直な雷を半ば騙すような真似して懐柔していった俺は、セックスの経験しかねぇ恋愛童貞だって気付かされた。
この俺が、欲しい相手を手に入れるまで三ヶ月以上かかってんだよ。
ムカつくだろ、そりゃ。
「雷にゃんがおとなしいと調子狂うからさぁ、機嫌損ねてんのが迅なら早急に何とかしろよ」
「別に機嫌悪くはねぇだろ」
「じゃあなんで迅のツラ見て逃げんだよ。 さっきだってアニメみてぇな逃げ足だったじゃん」
「それは知らねぇ」
「迅は心配じゃねぇの?」
「いや、雷にゃんのこと信じてっから。 家の用事があるって言うなら、俺はそれを信じる」
雷のツラ見てたら、疑う余地も無えよ。
目が合ったら、こっちが手出しするの躊躇うくらい緊張感醸し出してくんだぞ。
ンなの……〝可愛い〟しか無え。
言い切った俺に、ラグの上で胡座をかいた翼がニヤけたツラを向けてくる。
コイツが何を言いてぇのか、手に取るように分かった。
「へぇ……。 迅、マジなんだ?」
「………………」
「女は全部切って禁欲生活してるってガチなんだ? て事はそれだけ、雷にゃんにマジなんだよな?」
「……あぁ、そうだよ。 だから雷にゃんの処女奪ってくれって話は金輪際二度とするな」
「ん〜……」
「マジでやめろ。 処女奪ったとしてもお前に味見はさせねぇから」
「あ、待て待て。 っつーことはもう、雷にゃんの処女頂いちゃった感じ!?」
うわ、そうくるか。
翼のテンションが爆上がりしたせいで、何があってもコイツには俺たちの性事情を語るのはやめようと心に誓った。
俺たちがマジの〝迅雷カップル〟になったって、まだ半分冗談だと思われてんだろうな。
雷いわく俺は伝説並みにヤリチンで、その噂が束バッキー野郎の耳にまで入ってたとか不名誉もいいとこ。
間近でそれを見てきた翼が信じねぇのも、仕方ない事なのかも。
とにかく、今までの俺の行いが悪過ぎた。
「まだ頂いてねぇよ」
「またまたぁ! こないだ温泉旅館行ったって言ってたじゃん! 大チャンスだったろ!」
「………………」
「なるほど、そっかぁ〜」
「おい、マジでやめろよ」
「分かってるって! 俺どんだけ信用無えのよ」
「男女見境無え上にビッチ好き公言してる翼に、信用なんかあると思うか」
「あはは……っ、確かに!」
そこでゲラゲラ笑うなよ。
ひと笑い貰ったし帰ろうぜ、じゃねぇよ。
翼が俺を信じらんねぇのと同じ、いやそれ以上に俺はお前を信じてねぇからな。
ガチで頂いてもお前には絶対に報告しねぇ。
絶対にだ。
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