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⑦曲解 ─迅─⑩

 吐き出した精液で汚れたゴム付きチン○が、寂しげにゆらゆら揺れている。  発射目前だった俺のは萎えた。  こんなに泣くとは思わなくて、言ってる意味もよく分かんねぇしただただ頭ン中がプチパニック状態。  とりあえず俺は自分のナニをしまった。  不要になったゴム片手に、雷のチン○も綺麗にした。  その間、雷が泣いてる理由を考えた。  俺の〝挿れてぇ〟が号泣の引き金になった事だけは分かったが、なんでそれでこんなに泣くのか。  制服を正してやり、雷を抱きしめて宥めてみてもヒックヒックとしゃくり上げる声は止まない。 「……そりゃ男なんだから挿れてぇと思うのは当然だろ? でもまだ雷にゃんにはムリじゃん。 俺焦ってねぇし、無理矢理とか絶対ヤんねぇから」 「なッ!? ンなの当たり前だろッ!? 無理矢理なんてなぁ、男の風上にもおけねぇコトしたらいくらヤリ迅なお前でも見損なうぞ!」 「分かってる。 そこはちゃんと雷にゃんの意思聞く。 心配すんな」 「はぁッッ? それめちゃめちゃヒドいぞ!! せめて俺が分かんねぇように隠れてやれ! いかにも今からヤりますって言われた方が傷付く!」 「………………?」  キッと見上げてきた猫目は、怒ってるというよりもまだシクシク悲しい気持ちの方が多い。  傷付く……? なんでヤりたい意思を聞いて傷付くんだよ。  この体格差だぞ? 雷の体ぶっ壊したらどうすんの。  傷付けないために少しずつ慣らしてくって言ってんのに。 「俺にだって人権があるんだ! 俺を傷付けたくねぇなら、頼むから自己申告エッチだけはやめてくれ! 予告されるとかマジでムリ!! 俺そんなの……ッ、そんなの耐えらんねぇ!!」 「……ん、ん……??」  ちょっと待て。  なんか違う。 なんか違うぞ、この会話。  俺は身体的に傷付けたくねぇって言ってるが、雷は精神的に傷付きたくねぇって言ってるように聞こえる。  どういう事だ。  どこがおかしい?  抱きしめた雷の体を少しだけ離して、泣きじゃくる可愛い猫目と見つめ合ってみてもコイツの考えなんか読めねぇ。  たぶんその時、何分も雷の目を見ていた。  俺のせいで泣いたんだ、雷は。  言葉のバリエーションが少な過ぎてワケが分かんねぇけど、事あるごとに心臓チクチクさせてた理由と繋がるような雷の号泣に、俺の浮ついてた心がやっと地に足つけた。 「おーい、お前らそろそろ出て来いよ〜。 俺いつまで見張りしてなきゃなんねぇのー?」  密着した雷の体がビクンッと跳ねる。  これはよーく話し合う必要がありそうだと思った矢先、トイレの入り口の向こう側から悪友の声がした。 「ぴぇッ!? 翼!?」 「……みてぇだな」 「も、もももももしかして、いま、いまの、き、き、き、聞かれてた!?」 「……百%な」 「ウソだろぉぉぉぉッッ!? もーだめだ! 俺恥ずか死ぬ! 恥ずか死ぬぅぅッッ!!」 「あ、おい! 雷にゃん!」  翼に一部始終を聞かれていたと知った雷の逃げ足は、これまで以上に早かった。  鍵を開けて駆け出そうとした雷を引き止めた俺に、クシャクシャな顔で振り返って捨て台詞を吐く。 「うるせぇ性欲モンスター!! もう俺に近付くな!! 俺は怒ってんだ! 俺に触ったらヤケドするぜ!!」 「………………」  また日本語の使い方違うぞ、雷にゃん。  言いたくても言えなかった。 アニメばりに早え逃亡劇と、悲しくて泣いてたはずが実はキレてもいると分かった俺は、ヤケドしたくねぇから追わずに居た。  あの様子じゃ、追いかけて話し合いしようにもまともに会話すら出来ねぇだろ。  手を洗って、今や物悲しい産物となった二つのゴムをゴミ箱に放る。  ……なんでこうなった。 「よぉ、性欲モンスター」  入り口で俺を待ってたらしい翼のニヤけ面が、めちゃめちゃ癪に障る。  問答無用で八つ当たり対象だ。 「……首絞めてい?」 「えーホントの事言って俺殺されんの? 理不尽だわぁ」 「……覗きが趣味になったのかよ」 「いんや? ただの興味。 迅雷カップルがどこまで進んでんのか気になって」 「悪趣味だな。 お前もしかしてまだ諦めてねぇの?」 「何が〜?」 「フンッ……」 「てかさっきの聞いてて分かった事があんだけどー」 「……なんだよ」  姿が見えなくなった雷を気にかけつつ歩き出した俺に、ニヤけを封印した翼からマジトーンで「お前らさぁ」と語りかけられた。  嫌な予感しかしねぇ。 「まだ〝迅雷コンビ〟のままじゃん」 「は?」 「雷にゃんはカップルだなんて思ってねぇぞ。 お前一人で浮ついててダッセ」 「……は? 何言ってんの?」 「迅がマジなのは分かんだけどー。 雷にゃんは全ッ然、付き合ってるモチベじゃねぇってコト〜」 「いや意味不。 俺らはちゃんとなぁ、……」  やっぱ聞きたくねぇ事だった。  浮ついてたのは認める。 でもカップルなのはマジじゃん。  雷がそういうモチベじゃねぇって、どこをどう見たら……。  って、いや、待て。  俺らの間にそういう明確なもんってあったか?  〝好き〟とか〝付き合おう〟とか、俺言った?  雷からも言われた事あった?  …………ちくびミッションクリア、イコール付き合えるって、俺誤変換してたんじゃね? 「ちゃんと? なになに? どうしたのかなぁ〜? ヤリチン迅さん〜?」 「……そういうの、言った事も言われた事も無かった」 「うわ、今頃ンなコト言ってんの? 迅雷カップルと呼べ、なんて大口叩いてたくせに。 マジでダッセ」  立ち止まって呆然とする俺に、翼の揶揄が容赦なく降りまくる。  今度こそ、頭ン中が真っ白になった。 「……じゃあなんで雷にゃんは何も拒否んねぇの? ミッションコンプ出来たし。 言葉なんか無くても大体分かんだろ? ダチ同士でヤることじゃねぇじゃん、太ももエッチなんか」 「なんだよそれ」 「素股のこと」 「ぶはッ! 雷にゃんがそう言ったん?」 「あぁ」 「なるほどねぇ〜」 「俺のこと見てたら心臓チクチクするって。 なんか最近立て続けに前のセフレが押し掛けてくんだけど、雷にゃんそいつら見て嫉妬してたし……」  だから俺は、好かれてるもんだと。  付き合ってる恋人の過去を目の当たりにしたら、そりゃチクチクするよなって……逆に喜んじまってたりして。  てかあれは間違いなく嫉妬だろ。  嫉妬の他に、チクチクする理由なんて無えじゃん。  でも、さっきのおかしな会話とか今までのアイツの言動とか思い出してみると、翼の指摘は的を射てる。  て事は……付き合ってると思ってんのは俺だけだったのか……?  それマジ……? 「……ヤリチンとバカが付き合うとこうなるんだなぁ。 覚えとこ」  うるせぇ、と言い返す気力が無かった。  喉が締まってて、声が出なかった。  雷と同じ場所がチクチクしてる。  呼吸の仕方忘れたみてぇに、うまく息が出来ない。  これ痛てぇな、雷にゃん……。

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