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⑧極めてみようと思います! ─雷─

 カタカタカタカタ……。  キーボードを弾くタイピング音ってやつが、俺の怒りをさらにさらに盛り上げる。  ちょっとやそっとじゃ治まらないこの激怒は、一人で居たら絶対揉め事につながると思った俺はある人のところに連絡ナシに押しかけた。  もちろん、あのまま自主早退だ。 「考えらんねぇ!!」  バンッとテーブルを叩くと、ノートパソコンが少しだけ動いた。  同時にカタカタも止まって厳しい視線がくる。  そんなの、怒りが治まらない俺にはどうってことねぇ。 「あのヤリチン野郎……ッッ! 俺とエッチしてる最中だってのに、アイツ何て言ったと思う!? 「あー挿れてぇ……」だって!! 公開ヤりたい宣言とかマジで最悪! アイツは正真正銘の性欲モンスター最低チン○野郎じゃん!!」 「………………」 「俺には挿れるとこねぇって分かってて言ってんだぜ!? どう思う!? 修也先輩!! ……痛てッッ」  勢いで名前ごと叫んじまった俺の頭を、丸まった何かのパンフレットでペシッと叩かれる。  うー……痛てぇ。 そこそこイイ音したぞッ。 「この格好の時にその名前で呼ばないでくれる?」 「……ごめんなさいー」 「あのねぇ雷。 お店、今週末オープンなのよ。 あたし今めっっちゃくちゃ忙しいんだけど」 「分かってるよー。 だから俺も手伝ったじゃんー」 「何を?」 「……先輩がパソコンカタカタやってんのを見守ってた」 「それは手伝ったとは言わないわよ」 「むぅー……」  何も先輩に、俺のこの怒りを分かってくれ!って言ってるわけじゃねぇんだ。  どっちかって言うと、ダメ元でモールに来て、白いカーテン捲って店内見てみたら女バージョンの先輩が居た事を喜んだ。  みっともねぇ泣き顔にはじめはビックリしてた先輩だけど、めちゃくちゃ忙しいからって「後でね」と俺を邪険にしたじゃんっっ。  手伝いはしてないけど、黙ってたぞ。  十五分くらいは。 「はぁ。 ……で? オープン前の超多忙な時にこんなとこまで来て、雷はあたしに何を求めてんの」 「いや……求めるっていうかぁ……」 「ん?」  やっと俺を慰める気になった先輩が、ノートパソコンをパタンと閉じる。  それを見た俺は、人差し指をイジイジ。  さっきの迅とのエッチとか「挿れてぇ」発言とか、思い出すだけで悲しくなる。 同時に、最高にイライラもして心臓もチクチク痛てぇ。  よく分かんねぇけど、俺はアイツのセフレを間近で見てすごく嫌だった。  あーコイツとヤッてたんだ。 コイツもあのデカチン迅様を知ってんのか。 迅とキスしたり、迅からちくびチュパチュパされたり、エッチの最中にあのイケボで甘い言葉を囁かれたりしてメロメロになってたんだ。  そんなゲスなことをいっぱい考えてたら、悲しくて痛くてムカついた。  いかにも「雷にゃんだけだよ」って感じだけど、たぶんその後に「今はな」って言葉が付け足されるんだと思う。  それがめちゃめちゃ怖え。  大勢のうちの一人なんてイヤだけど、そうじゃないと性欲モンスターは満足しねぇだろ?  だからせめて、少しでも長く迅のお気に入りのままで居たい。  ここに来るまで鳴り止まなかった着信音は、ぜんぶ迅からだったけど……もしホントに追い掛ける気があるんなら、今ここに居なきゃおかしいだろ?  って事は、立派とは言えねぇけどチン○の付いた〝俺〟とのエッチはその程度なんだ。  俺が迅のお気に入りで居続けるにはもう、アレしかない。 「先輩……ギャルになるにはどうしたらいい?」 「あ〜ギャルね、……。 ……は!? ギャルになるには!? 藪から棒ね!? どういう事よ!?」 「だって迅の好みはギャルなんだもん。 俺、金髪しかクリアしてねぇ。 巨乳は好みじゃねぇらしいからまぁいいとして、あとは何したらギャルになれんだろ。 ミニスカ履いて、先輩みたいにウィッグ被って髪伸ばせば、俺もギャルに見えっかな?」 「………………」 「先輩?」 「………………」 「お〜〜い、先輩〜〜。 お〜〜い」  俺は真面目に言ってんのに、先輩は化粧で倍になった目を見開いて頭を抱えた。  芝居がかったそれを見た俺は、先輩の顔の前で手のひらをヒラヒラ〜ッとさせる。  一点集中してんだもん。 心配になるじゃん。  てか、そんなにおかしいこと言った? 俺。 「なんか……頭痛くなってきた」 「えッ、大丈夫か!? 薬買って来るぞ!?」 「ううん、平気。 ちょっと目を離してる間にアレが加速してるわね、雷」 「アレって?」  ふぅ、とため息をついた先輩が、俺にニコッと笑い掛けてくれた。 ……けど、これはたぶんバカにされてるよな。  迅から揶揄われ過ぎて、ちょっと分かるようになってきた。  俺、一つ賢くなった。  いや今は伸びしろたっぷりな俺を自画自賛してる場合じゃなくて、ギャルになるには何をどうすればいいか教えてもらわねぇと。  早く連絡返さねぇと迅がヨソに行っちまう。  何しろ迅はさっき、未発射だったから。 「なぁなぁ、どうすりゃいいと思う? 見た目だけ女にしても、結局は挿れるとこが無ぇ俺なんかすぐお役御免かなぁ……?」 「……雷は迅クンの何なの?」 「セフレー」 「それはこの間聞いたわよ。 ホントにセフレなの?って聞いてんの」 「女とヤりてぇ時は俺に申告してから行くって言ってたし。 すげぇよな、ヤリ迅って。 女がバカみたいに寄って来んだぜ」 「はぁぁ……。 ねぇ雷、質問と回答の意味分かってる?」 「何それ。 国語の問題?」 「はぁぁぁ……」 「ため息やめろ!!」  迅といい先輩といい、俺の前でため息つき過ぎな!?  こんなに真剣に、セフレとしての向上心と外見を磨こうと奮闘しようとしてる俺に向かって、失礼だとは思わねぇのかっっ。

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