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⑨恋慕 ─迅─⑧
無事で良かった。
とにかく何事もなくて良かった。
ほっぺたが真っピンクで元気そうなツラ見て安心した。
ただ別のところで怒りは継続中。
何が「待っていたぞ」だ。 ふざけんじゃねぇ!!
「そんなバカバカ言うなっつの! もっとバカになったらどうしてくれんだ!」
「お前はすでに手遅れだ!! 何のためにこんな大それたドッキリ仕掛けやがったのか知んねぇけど、正真正銘のバカの烙印押してやる!!」
「ラクインって何だ!?」
「うるせぇ!! ……ッ、あぁもう……ッ、何なんだよ、……心配かけやがって……!」
「えッ!? 迅ッ、大丈夫か!?」
色んな事が同時に襲ってきたせいでドッと疲れた俺は、床に膝をついてへたり込んだ。
でっけぇ溜め息を吐いて、何の罪もねぇフローリングの床を睨み付ける。
うるせぇ、大丈夫だ。 ……大丈夫なんだけど、俺はいま凄まじい敗北感を味わってんだ。 ほっとけ。
てかお前が先輩とグルになってこんなドッキリ仕掛けてきたんだろ。
どの口が俺を心配してんだ。
俺の方が何千倍も心配してたわ。
これまでの人生で、こんなに大声を張り上げた事が無かった。 それこそ順風満帆だったから、ピンチに見舞われた事も我を忘れてキレる機会も一度たりとも無かった。
頭に血が上るって言葉を体現した。 限界まで逆立ちした時と同じ感じで、頭痛まで引き起こしかけた。
こんなのマジで貴重な経験だとは思うが、二度とゴメンだ。
捕まえたいと思ったヤツが誰かに拉致られたかもとか。 犯されてるかもとか。 最悪殺されてるかもとか。
生きた心地がしなかった。
「迅……ッ、そ、そんなに心配してくれてたのか……ッ?」
項垂れたまま動かねぇ俺の下に、寝転がった雷が回り込んできた。 「おーい」と俺の顔の前で手のひらをヒラヒラさせて見上げてきて、激しく脱力する。
畜生……──可愛い。
どんだけ雷がバカな事をしでかそうが、俺の目は完全に節穴になっちまった。
怒る気力を削ぐ猫目で心配気に見上げられたら、可愛いしかねぇだろ。
それだけ俺はお前に惚れてんだよ、バカ雷。
「…………するだろ、そりゃ。 好きなヤツがヤバイ目に遭ってるかもなんて、……心臓止まるレベル」
「す、す、……す、す、……すッッ?」
転がった雷の腹に乗り上がって、片手で両方のほっぺたをぶにっと押す。 唇の尖ったヘンなツラだが、これも可愛い。
あーあ。 ホッとして、キレて、ホッとして、キレて。
でも結局はこのツラでほだされる。
藤堂迅って人間の感情を、これでもかと揺さぶられる。
「ったく……お前と居ると退屈しねぇな」
「迅……ッ、お、お、お、重いぞ!」
「うるせぇ。 俺のお前への愛はこんなもんじゃねぇぞ」
「あ、あッッ!? あい、……ッ!?」
ブサカワなツラでアワアワしてる雷を見下ろしてると、何もかもを許してやろうっていう菩薩的な心境になってくる。
これも雷への好意がパンパンに膨れ上がってるからこそで、躊躇いなくサラッと俺は口にした。
「好きだ」
「……ッ、ヒィィッッ!?!?」
「雷にゃん、好きだ」
「ヒェェッッ!?!?」
「……何だよ、その反応」
「イッ、……ッッ、ちょっ、待って、マジで待って、胃が痛てぇ!!」
「はぁ!? なんで胃が痛てぇんだよ! 俺が告ったからストレス感じたっての!?」
「違ぇよ! そうじゃなくてッ、ここ、ここ痛てぇの!」
雷の反応が、告られたヤツのそれじゃなくてまたキレそうになった。
顔面を真っピンクから真っ赤に変色させて、明らかにドキドキしてますなツラで俺を見上げてくるくせに、足をジタバタさせて反抗を試みている。
カチンときて雷を見下ろすと、「痛てぇ」場所を押さえて涙目になっていた。
よく見たら耳まで真っ赤になってんじゃん。
「……そこはいつもの心臓チクチクの場所じゃね?」
「──ハッ!!」
「あはは……っ、お前のそのツラ、マジで好き」
「す、す、……ッ、す、すッ……!」
「もっと言おうか?」
「ナ、ナニヲ……ッ?」
猫目をまん丸にして、ほんとは俺がナニヲ言いてぇか分かってんだろ。
あざといんだよ、雷にゃん。
しょうがねぇから俺もそれにノッてやる。 俺の言葉と声で心臓チクチクさせて、可愛い反応が見れるんならいくらでも言う。
雷を抱き起こして、太ももの上に乗っけた。
逃げらんねぇように腰に腕を回して、弱えと分かってる耳元に口付ける俺も相当あざとい。
「雷にゃん、好き」
「ヒッ……っ」
「好き」
「ヒッ……っ」
「雷にゃん」
「…………っ」
「好き」
「ヒッ……っ」
「好きって言葉にしか反応しねぇのな。 器用じゃん」
あー可愛い。 〝好き〟と囁く度にビクついた細い体が、めちゃめちゃ愛おしかった。
可愛過ぎて腹が立つ。 なんでコイツこんなに可愛いんだ。
「迅、……ッ、でも俺、俺は……ッッ」
「あー、そうだ。 告ったからには返事を貰わねぇとな。 言えよ、返事。 聞いてやっから早く言え」
「なんでそんな上から目線なんだよッ! 告られたのに脅されてる気分なんですけど!」
「脅してんだよ。 答えは一つだろ? こんな事されて俺がデコピン一発で済ましてやってんだ。 詫びも入れつつ俺に告れ」
「なんだそれ!? そんな告り方ある!? 俺様迅様 怖えぇぇ〜〜ッッ!!」
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