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⑩カレシが出来ました! ─雷─③

… … …  指一本のタイマン日が明後日に迫ってる。  放課後、秘密基地でいつもの一時間を過ごした後は毎日迅の家に拉致られて、もっさん達と遊んでダラダラしてんだけど……なぜか抜きっこ大会は開催してくれねぇ。  いい雰囲気にはなるんだけどな。  タイマン日までは一人ででも抜いちゃダメなんだって。  たぶん、お仕置き的なやつだと思う。 迅のヤツ先輩と組んで迅を試そうとしたこと、まーだ根に持ってんだぜ。 「迅さーん。 重ーい。 そろそろマジで息止まるー」 「………………」  迅のベッドでうつ伏せになった俺に、現在、迅が乗っかってる。  もっさん達はスヤスヤと夕寝中、抜きっこ大会もしねぇ迅は容赦なく俺にくっついてくる、……いやいや、彼ピッピになった途端に甘々なのはいいんだけど、心臓に悪りぃから。  せめてドキドキを誤魔化そうとスマホでゲームしてたんだけど、重さに耐えらんなくなって、さらには顔を上げてるのがしんどくなってきた。  俺に乗っかるだけ乗っかって黙ってるなんて、楽しいのかよ。  深夜はさすがに知らねぇけど、大会が開催されてない以上は迅も我慢してんじゃねぇの?  あ、……うん、ダメだ。 こんな事考えてたらキュンキュンドキドキが加速する。  背中に居る迅の重圧ですでに押しつぶされそうなのに、内臓までやられちまう……ッ。  何か別の話題を考えよう、……別の話題……。 「じ、迅さーん。 腹減ったー」 「……さっきおやつ食ってただろ」 「まだペッコリー」 「なんだそれ」 「ペッコリー? お腹ペコペコを改造したー」 「ふーん。 お前といると新しい単語知れていいな。 オリジナリティ溢れてるけど」 「俺は時代のセンクシャだからなー」 「言いてぇ事は分かるけど言い慣れてねぇなぁ?」 「わふッ、あはは……ッ、くすぐってぇ! やめろよーッ! あははは……ッッ」  なんでここでくすぐりモンスターになるんだ!  脇腹をコチョコチョされて耐えられる人間なんて居ねえだろ!  無理やり笑わされてる俺を見て、迅が超絶うっとりな笑顔浮かべてる。  くすぐったさに体を捩ると、そのまま軽々と抱えられて態勢が逆転した。 つまり、寝転んだ迅の腹に乗せられたって事。 「雷にゃんは脇腹も敏感だな」 「うぅーーッッ!」  くすぐった後はナデナデっすか! 飴とムチってやつっすか!  イケメンでイケボな元ヤリチンは、俺を常にキュンキュンさせやがんのなッ?  すげぇ……部屋の中がピンクに見える……!  どうしよ、俺達いま、世に言う絶賛ラブラブ中ッ?  このままキスの流れになったらどうしたらいいッ? ベロ入りのねちっこいキスなんかされた日には、キュンキュンがムラムラに変わっちまうぞッ?  ま、まぁ、それを迅も分かってんだろうから、今週のキスはチュッくらいで済ませてんだよな。  迅が俺の頭をナデナデしながら見つめてくる。 いやこれは凝視だ。  だから俺も、上の上なイケメン面をガン見した。 まばたきしたら負け。  勝負だ、迅……! 「……目が乾くぞ」 「はい、俺の勝ちー!」 「何が? 何か勝負してた?」 「先にまばたきした方が負けゲームしてた! だから俺の勝ち!」 「フッ……ガキかよ。 可愛いな」 「かわ、ッッ」 「雷にゃんは可愛い」 「か、かわッ、……ッ!」 「好き。 めちゃくちゃ好き」 「……ッ、ピィ……」 「ははっ、その鳴くやつマジで可愛い」  畜生ぉぉ〜!! 俺が勝ったはずなのになんだこの敗北感!  惜しみない笑顔と甘々攻撃が止まんねぇよ!  いつの間にか負けに転じた俺は、迅の胸に顔をうずめてキュン死にした。  ムカつく! ムカつくくらいドキドキする!  俺の彼ピッピがカッコ良すぎる件。  これは重大な問題だ。  迅の気持ちを試す前とそんなに大差無え時間の過ごし方してんのに、迅が俺への甘々言葉を解禁したせいで、この部屋どころか毎日どこもかしこも薄いピンク色で溢れてる。  だからと言っちゃ迅にキレられそうだけど、先輩とのあの作戦はまったくの無意味ってわけじゃなかったんだ。  ……っ、あ! すっかり忘れてた!  昨日の先輩とのメッセージのやり取りを思い出した俺は、ガバッと顔を上げた。 「あ、そうだ! 先輩が迅と話したいって言ってたぞ!」 「は?」  おおぅ……迅様、先輩って単語出した途端に眉間がおっかねぇです……。  あのひと悶着の後、先輩と迅は電話で通話していた。  さすがに仲良しこよしな会話ではなさそうだったんだけど、一応は和解?したように見えた。  ただ、『まだ電気・ガス・水道は止めてないからそこでナニしてもいいよ』っていう先輩の台詞に、迅は『あんたが使ってたベッドでするわけねぇだろ、バカじゃねぇの』ってブチキレて電話切ってたけどな……。 「話してぇなら直接電話してこいって言っとけ。 何のために番号交換したんだよ」 「そんなこと言わずにさぁ、話してあげてよー。 あの時の事は先輩のせいだけじゃないんだし?」 「それは分かってる」  まったく。 俺様迅様は一回ヘソを曲げると長えんだから。  と言いつつ俺のスマホを取ってくれる優しい迅。 そういうとこ、マジで好き。 ……ウハッ♡ 口に出してもねぇのに照れるぜ!  先輩にメッセ打ちながら、迅の上で足をバタバタさせる。  俺の体重なんかじゃ何のダメージにもならねぇらしく、迅は平然と俺のほっぺたをいじって遊んだ。  そうこうしてるとすぐに先輩から返事が届く。 「あっ、ほら、先輩いま休憩中だって! 電話してい?」 「……別にいいけど」  よしよし、俺のほっぺたをいじくり回して機嫌が直ってんな、迅。  今のうちに先輩に電話だ。  迅に何の話があんのか知らねぇけど、俺を通してんだからオッケーって事にして、通話をスピーカーにした。

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