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⑩カレシが出来ました! ─雷─④

 休憩中の先輩はすぐに通話に出た。 『雷〜! いいところに連絡くれたわね!』  うぉッ? 声デケェ!  待ってましたとばかりのテンションで、ちょっと声のボリュームがヤバかったから音量を下げる。 「え、何? ていうか今、迅と居るよ」 『あら、そうなの? ラブラブイチャイチャしてんの?』 「へへへへッ……そんなことねぇよーだッ。 へへへへッ……♡」 『幸せそうで何よりよ。 あっそうそう! 雷、今週の土曜日ってヒマしてたりしない?』 「土曜日?」 「ヒマしてねぇよ」  聞かれた俺より先に答える俺様迅様。  ていうか先輩、迅に話があるからって言ってたのにどうしたんだろ。 『ちょっと、迅クンに聞いてないわよ。 あたしは雷に……』  音量を下げたせいで、迅の即答で落ち着いたらしい先輩の声が聞き取りづらくなった。  慌てて音量を元に戻す。 「土曜日が何? どうかした?」 『ついさっき、明日出勤のバイトの子が熱出したって連絡きたのよぉ! それは全然構わないんだけど、ウチもまだ開店したばっかでバイトたくさん雇う余裕無いからぁ、シフトが組みにくくてぇ。 日曜は何とかなるから、土曜日だけでも雷が来てくれたらすごーく助かるんだけどなぁって』 「………………」 「………………」  あぁ、そうなんだ。 そういう事なら別にいいよ、……と言いかけて、迅と目が合う。  俺の真下にいる迅が、小さく首を振って見せた。  ダメってこと?だよな。  だって、土曜日ってさ……ほら、あの……あの……。 『何か予定入ってたりする?』 「いやッ、そういうわけじゃねぇ、んだけど……」 「その日は俺と予定があるんだよ」 『え? でも迅クン、土曜日はシフト入ってたじゃない。 日曜はお休みになってたけど』 「なんで俺のシフト把握してんだよ。 あんたテナント違えじゃん」 『それは裏ルートよ、裏ルート! ねぇねぇ、お願いよ〜! 雷、リピーターのお客さんから物凄く評判が良くて、平日にも雷目当てに来る方が居てあしらうの大変なんだから!』 「………………」  えーッ、そんな事言われてもーッ!  土日バイトに入っただけなのに、雷ギャルの人気凄まじいな!?  先輩が迅のシフトを把握済みで、予定があったとしても翌日休みならいいじゃんって先手を打たれてる。  てか俺もそう思う。  週末は死んでも空けとくつもりだったけど、何も迅がバイト中の昼間まで空けとく事はねぇよな?  しかもピンクなコトすんのは、たぶん……夜だし?  一人で迅の帰りを待ってる間、ドキドキのあまり呼吸困難起こしてぶっ倒れる可能性もゼロじゃねぇから、バイトしてた方が気晴らしになりそうだ。  先輩の助けにもなるなら、いいことじゃん? 「バイトって土曜日だけ、だよな?」 「おい、雷にゃんっ」 『そう、土曜日だけ! ちゃんとバイト代も色付けて払うし、迅クンとの休憩時間も合わせてあげる! どう!?』 「それなら、まぁ……いいかな。 土曜日って迅もバイトなんだろ? 何時まで?」 「……その日は十七時で上がる」 『ほらね! 雷も十七時で上がらせるから、いいでしょ! ちちくり合うのはその後でも出来んじゃない!』  ブハッ……ち、ちちくり合うって……!  女バージョンでも男バージョンでも、先輩は先輩だからいちいち面白え。 おまけに強えし、いざって時に頼りになるし、迅の次に尊敬する。  でもなぁ……〝俺は猫だ〟っていう意味不発言は、まだ俺も疑ってるんだけど。  って、迅がまた不機嫌クンになってんな。  俺が勝手にバイトOKしたから怒ってんのかな。 「……てか俺に話あったんじゃねぇの」 『あ、そうだった。 今スピーカーにしてんでしょ? 雷、迅クンに一言だけ言いたいことあるから、オフにしてくれない?』 「んー」  え〜え〜なんだよなんだよ。 俺は聞いてちゃいけねぇ話だってのぉ?  スピーカーをオフにして、迅にスマホを渡す。 受け取った迅が、俺の体を支えながら上体を起こした。 「……何? ……あぁ、……いや、別にその話はしてねぇよ。 ……っつーか、あの話も拉致監禁で俺をビビらせるための作り話だったって言うんだろ? ……え? あ、マジでか。 ……分かった」  じゃ、って。 あーあ、通話切っちゃったよ。  俺も先輩にバイバイ言いたかったのに。  不機嫌クンなツラした迅から、スマホを差し出された。  完全に俺をのけ者にした二人は、俺には分かんねぇ難しい話?をしてたみたいだ。  うッ……表情が怖え。 向かい合わせになった俺の顔を無言でジーッと見つめてくる、そのイケメン面は心臓に負担が……ッ。 「な、何? なんか深刻な話してた?」 「いや……特には」 「えぇ、ウソだー!! 二人で何話してたんだよー! 俺の先輩と俺の迅がナイショ話してるとかあり得ねぇんだけど!! のけ者にしたら俺いじけるんだか……ンむッッ!?」  ムチュッと唇が重なった。 ムギュッと抱きしめられてムチュッとキスされちゃ、頭ン中がボーンッてなるぞ……ッ。  て、てか、ま、ま、まだ、キレてる途中だったんだけど。  俺をのけ者にするなー!って。  ナイショ話は悲しいー!ぴえんー!って。  そんなの吹っ飛んだけどな。  ちゅっ、ちゅっと唇同士がやわらかくぶつかる甘々なキスは、すんげぇ気持ちいい。  俺みたいな童貞男子には、ベロ入りの濃厚なキスよりこっちの方が合ってる。  このキス、好き。 何時間でもしてられる。 「雷にゃん、俺のそばから離れるなよ」 「ん、んッ?」 「あと、何があってもアプリは消さないでくれ」 「……ふぁっ♡ わ、分かっ、……ンッ♡」  あ〜ッ、気持ちいいキスの合間のイケボッ♡  離れるなってヤバッ♡ 新しくまた俺のスマホにインストールしてたアプリも、もちろん消すもんか♡  迅に見張られるの超心地いいからさ、俺♡  何だかよく分かんねぇけど、大好きなキスをいっぱいしてくれて、さらに束縛系彼ピッピ発言してくれた迅が男前すぎてツライ! 「……可愛いからな、雷にゃんは。 可愛すぎんのも困りもんだな」 「ンン〜ッ♡」  俺のこと可愛すぎって思ってくれてんの、迅。  ちょうど俺も今、迅のこと男前すぎるって思ってたとこだよ。  俺たち気が合うなぁ♡  二人で一体何の話をしたのか知らねぇけど、迅のキスが止まんねぇよッ♡  先輩グッジョブ!

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