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⑩カレシが出来ました! ─雷─⑤

… … …  土曜日の爽やかな朝。  現在、スタッフルームCに居ます。  先輩と俺は、いつも通り。 しかし迅が不機嫌クンです。  その理由が、たった今やっと分かりました。 「……はぁ……」  迅さんよぉ、何百回目だ、そのため息!  先輩の手によって二十分でギャルに変身してから、俺のことガン見してるくせにため息が激増してるぞ!  どう控えめに見ても、俺って結構イイ感じになってると思うんだけど! 「似合ってんだろ!? 俺似合ってるよな、先輩!?」 「えぇ、とても似合ってるわよ。 立派なギャルね。 しかも上玉」 「だよなー!? 自分で自分を褒めるとか頭イカれてっけど、俺かなりカワイイと思うぞ!」 「はぁ……」 「何なんだよ、さっきから!!」  俺がこうなったのは迅のせいでもあるんだし、一言「フッ、可愛いな」くらい言ってくれてもいいじゃんッ。  それとも何だ?  実は迅の中でギャルの基準ってもんがあんのかな? 俺はそれに達してねぇってこと?  今日も絶好調に女バージョンの先輩が、メイク道具を片付けながら迅の不機嫌なツラを見て苦笑いした。 「迅クンが雷にバイトさせたくなかった理由って、コレでしょ?」 「コレ? コレって何?」 「雷が可愛くなっちゃうから、ギャルになってほしくないって事よ。 ギャル好きな男どもの視線を釘付けにしちゃうでしょ」 「えぇぇ!? そうなのか、迅!♡」  なーんだ!! そうだったのか!!  それならそうと早く言えって〜♡  まさか迅の好みのギャルとはかけ離れてんのかって、焦っちまったじゃん。 下の下は何しても下の下だな、なんて言われたら、俺泣きながら帰ってたとこだ。  フムフム……。 そう言われると、迅のツラは確かにキレてるってより拗ねてるって感じだな。  これだから末っ子はッ。 「……なんでそんな嬉しそうなんだよ」 「そりゃ嬉しいに決まってんじゃん!! てかそもそも、俺は迅を落とすためにギャル化しようとしたんだからな? お忘れっすかぁ?」 「あぁ、そうだったな。 俺はすでに落ちてたっつーのに、余計な空回りしやがったんだっけ」 「んへッ♡ あん時もう落ちてたとか……先輩の前だぞ、迅ッ♡ んへヘヘッ♡」 「………………」 「……見事にデレデレね。 先週よりもっと可愛くなってるわよ、雷」 「ホントぉ!? それガチめに嬉しいぜ!!」  不機嫌クンじゃなく、ただの拗ね迅だって分かった俺はルンルンだ。  先週と何が違うのかよく分かんねぇけど、先輩は可愛いって言ってくれて、拗ね迅も目を細めてガン見してた。 って事は、やっぱ雷ギャルはイケてるってことだよな♡  迅の隣に居て見劣りしねぇんなら、ギャル化も無駄じゃねぇ。  俺と迅は両方〝カレシ〟で、よっぽど仲のいい奴にしか言いふらせない関係だもん。  迅がもし、誰かに恋人を紹介しなきゃって場面がきたら、俺は迷わず雷ギャルになる。 全然、苦じゃねぇ。 むしろそれは、迅が彼ピッピになる前から考えてたくらい当たり前のことだ。  鏡の中の自分を見てた俺は、何気なくチラっと迅を見上げた。  ──ドキッ。 うぅぅ……ッ、目が合っただけで心臓が……ッ! 拗ね迅め……今日もイケメンだ……! 「じゃあ俺もバイトだから行くけど。 雷にゃん、よく聞け」 「ひゃいッ?」  スマートに腕時計を確認した迅は、ウィッグを被った俺の頭に手のひらを乗せて少し屈んだ。  俺と同じ目線になって何を言うかと思えば、……。 「マジで、他の男に色目使ったらその瞬間に拉致監禁すっから」 「え、……えぇ!? ヤバッ♡」 「お前がどんだけ嫌がっても、痛がっても、容赦なく俺のもんにする」 「そんな……ッ♡ 俺はもう迅のものだぞッ♡ あっ、でも痛てぇのはヤだな!」 「だろ? 俺のチン○思い出せ」 「ヒェッ!? あ、そっか……迅のアレが俺のアレにああなってこうなるってことだよな!? それは痛てぇ!」  迅のデカチン○が俺のケツに……って、考えただけで穴がキュキュッとなった。  今のって、男関係で迅の機嫌を損ねたら、無理やりヤっちまうからなって意味なんだよな、たぶん。  まだ〝指一本レッスン〟を受けてない俺は、そんなの苦痛でしかねぇ。  ていうか俺は、雷ギャルがいくらモテようが他の野郎なんて目に入んねぇしッ。 迅よりイケてる野郎なんか世界中どこ探しても居ねえしッ。  俺はこんなにメロメロキュンなのに、心外だぞッ!プンプン!と迅を睨む。 「動画で勉強してるだけあるな。 知識だけは入っててよろしい」 「えッ……? わ、わーい!! 褒められたー!! なぁなぁ先輩! 俺、先輩の動画三部作のおかげで迅に褒められた!!」 「よ、良かったわね」  俺のメロメロキュンが伝わって、さらにお褒めの言葉まで頂戴した!と先輩にピースサインをして見せるも、反応が薄い。  チェッ。 この温度差しらけるぜ。 ……いやいや、ダメだぞ、雷にゃんッ。  俺みたいに、毎日がピンクハッピーな人間の方が少ねぇ世の中だ。 ひけらかすのはよくねぇよな!  一人でツッコミとボケを繰り広げてた俺は、迅がこっそりバックハグを仕掛けてくるまで百面相をしていた。 「雷にゃん」 「あぅ……ッ♡」  ふわっと後ろから抱きしめられて、一気に心臓が巨大化。  ドキドキドキドキ……ッ。 うるせぇぞ、心臓!!  抱きしめられてるってか、二十七センチも差があるせいで包み込まれてる感じだけど、ヤバい。  迅……ッ、いい匂い……ッ、イケボ……ッ、しゅき……ッ♡ 「バイト頑張れよ。 三時間後、迎えに行く」 「ああ、絶対来いよッ♡ んフフフッ♡」 「じゃあな」 「フヒッ♡ じゃあな、迅もがんば♡」  最後に俺のほっぺたをぷにぷにッとして出て行った迅の背中に、ニヤついたままバイバイする俺。  うわ……ッ、寂しいッ! もう寂しいッ!  パタンってドアが閉まった途端、ぴえん! 「……あんたらいっつもそうなの?」 「………………」  え、なに? 先輩、何か聞きてぇ事あるならあとにしてくんない?  キュンキュンとぴえんが治まるまで、ちょっと待ってもらわねぇと……ッ。  ドキドキが鳴り止まねぇよ……迅、どうしてくれんのッ?  ほっぺたをぷにぷにしてったせいで、俺の顔ずっと熱いまんまなんだけど……ッ!

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