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⑪情交 ─迅─
あーあ……言うつもりなかったのにフライングしちまった。
めちゃめちゃ気張って予約しといたホテルに、雷がこんなにビビり上がるとは思わなかった。
そんなに広い部屋ではねぇんだが、外観内装含めてセレブホテルって認識してくれたんならそれでいい。
思わずフライングしちまったのも、クイーンサイズのベッドにビビって早速シチュエーションに負け始めた雷が可愛かったせいだ。
「雷にゃん、背伸びしろ」
「えッ? なん……」
「キスしてぇから」
「ふぇッ!? さ、さっきから何なんだよッ、いつから申告制を導入したんだ!?」
「そんなつもりはねぇよ」
威勢よく鳴きやがるそれは照れ隠しのつもりか。
腰を抱いてすぐ、雷の体温が急上昇したのは分かった。
誘うように耳をくすぐっただけで、キンキラキンの髪がブワッと逆立ちそうなくらい警戒心剥き出しになってんのもな。
部屋を占拠してるデケぇベッドに、嫌でも目がいく雷にゃん。 俺もそうだ。
「いや、やっぱいい。 ちょうどここにいいもんあるじゃん?」
「いいもんって……うわッ……」
チビっこい体を抱き上げて、ベッドにポイ。 驚いてる間に押し倒し、両方の手首を掴んでベッドに押し付ける。
雷いわくえちえち体位の完成。 ポイッからのこれは、スプリングの効いた高さのあるベッドでしか出来ねぇし俺も初体験だ。
「ちょっ、おまッ……! 迅ッ、危ねぇだ、ろ……んッ♡」
そうだな、危ねえよな。 でもお前はそれだけか?
押し倒した雷がおとなしくなる。
ほっぺたにキスして、耳たぶを甘噛みしたからか。
くすぐったそうに目を細めた雷の唇に、少しずつ迫る。
黒目ウロウロさせて俺の視線からことごとく逃げてんの、他に理由があんだろ。
「デケぇベッドに押し倒された感想は?」
「……ど、ど、ドキドキ、しま、……ッ♡」
「可愛いな。 ドキドキしてんの?」
模範解答だ。 照れるからって誤魔化さなかったの、めちゃめちゃ嬉しい。 そして可愛い。
お前だけじゃねぇよ、心臓バクバクなのは。
問いかけても、黒目を覗き込んでも、えちえち体位にドキドキ中の雷は呆けてしまってロクな応答が見込めなくなった。
そんじゃあ、……いただきま。
「んッ♡ ん……ッ♡」
唇を軽く押し当てて、舌先で歯列をこじ開ける。
途端に押さえ付けた手首に力が入るも、俺は難無くチビの逃亡を阻止した。
微かに震えてるようにも感じる雷の舌を舐めて、おまけに足も絡ませてみると華奢な身体がビクビクッと竦む。
甘ったるい声を喉で上げながら、ギュッと目を閉じて俺の舌を必死で追おうとする。
この慣れてねぇキス、たまんねぇ……。
「……お前なんでそんなに可愛いんだよ」
「ンンッ……ッ、しらな、……んッ♡ 俺、かわいく、ねぇ……ッ」
「何なんだろうな。 犯したくなるんだよ、雷にゃん見てると」
「ふぁ……ッ♡ 迅……、迅……ッ、迅……ッ♡」
「なんだよ」
キスの合間に喋る俺の技?を、〝ヤリチンの特典〟とかワケの分かんねぇ事を言ってた雷だが、コイツもそれが出来るようになってんのはどう説明すんだろ。
唇は離してやってねぇから、ひたすら苦しそうに何回も俺の名前呼んでるソレ、下半身に直撃なんですけど。
喘ぎ声とはまた違う、くぐもった甘ったるい声もヤバイ。
舌も美味えし、上顎のザラッとした感触で腰が震えるし、到着早々一発抜きたくなってきた。
だが唾液の混ざり合う音が響く中、気が散るほど雷は俺の名前を呼んでいる。
しつこいそれが何かを訴えてるような気がして、名残惜しいが舌と唇、手首も解放してやった。
「すき、ッ♡ 迅、……ッすき! マジで、しゅき……ッ、ンンーッッ♡」
「…………ッ」
ぎゅむっと抱きついてきた雷から、熱烈な告白を受けた。
首に回った細い腕がキスの時より必死で、先制攻撃を食らった俺は一瞬思考が停止する。
いやだって、俺が今日告るって言ったんだぞ。
なんで先越すワケ?
俺の方が好きだって言うのは悔しいんで、ほんとは何回だって言いてぇ〝嬉しい〟〝可愛い〟は置いといて、まったく動じてないフリをする。
「……俺も好き。 雷にゃん、好き」
「ピィ……ッ♡」
「こうやってすっぽり抱けるチビさがたまんねぇ」
「チビ、言うなッ」
ヤバイヤバイヤバイ。
雷のトロ顔に感化された俺の頭ン中が、完全に恋愛脳になってる。
可愛い、好き、をいくら言っても言い足りねぇ。 逆に、何回「好き」を聞いても足りねぇとも思ってしまう。
「もっと好きって言え、チビ雷」
「は、ッ? それどういう……ッ♡」
抱きしめた小せえ体が俺の中に収まってる。 普段なら照れまくって逃亡を図るクセに、今はジッとしてる雷の事が最大級に愛おしい。
ヘンな鳴き声上げたり、言葉だけ抗おうとしてみたり、俺の名前を何回も何回も呼んでみたり、絡ませた足をこっそりピクピクさせてみたり、全部がとにかく可愛い。
……ってな事を、今夜言うつもりだった。
だから今の「好き」は前菜みてぇなもん。
あ、ヤバ。 前菜と言えば……。
「雷にゃん、メシ行くか」
「えッ!?」
「何? 腹減ってんだろ?」
「い、いや、そりゃ腹ぺっこぺこだけど……ッ」
あっさりベッドから下りた俺を、雷は「もう終わり?」の表情で見上げてくる。
一発抜きたかったよなぁ、俺もそうだ。
でもセレブホテルのフルコースディナーに遅刻なんて出来ねぇだろ。
俺が仕掛けたキスでまだトロ顔してっから、あんまり外は歩かせたくねぇんだけど。
「あんまゆっくりしてらんねぇんだよ。 レストラン十九時予約だから」
「れすとらん……!!」
目キラキラさせて、そういう事ならとばかりにいそいそとクイーンサイズのベッドから「よいしょ」と下りるおチビちゃん。
性欲から食欲への切り替えが早い、単純バカ。
「ふへへッ、れすとらんかぁ♡」
「………………」
ほんの一分前まで、俺達は抱き合って濃厚なキスしてたんだぞ。 そのだらしないツラはなんだ。
ったく。 あー可愛い。
一つの事しか出来ねぇ不器用な俺の恋人は、とことん可愛いところしかねぇな。
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