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⑪情交 ─迅─②

 ぶっちゃけ俺は、初フルコースだ!とはしゃいだコイツのバカ素直さに惚れてると言っても過言ではない。  そういう空気になると一気にソッチの気持ちに切り替わる、単純でエロいとこも気に入ってる。  トラブルメーカーがトラブル過多なんて当たり前のことで、だとしても俺が守ってやれるっていう自負もある。 心配は尽きねぇけど、猪突猛進でバカ正直なとこが俺の性癖にグサグサッと刺さった。   さっきのキスも夜のコトも忘れて、フルコース目前の雷は軽快に鼻歌を口ずさんでるが、それでいい。  呑気としか言いようがない雷と、アトラクションみてぇに夜景が望めるスケスケセレブエレベーターに乗って、宿泊する部屋のある十三階から二階へと降りる。  窓に指紋が付いたら罰金取られるかも、なんてバカな事を言う雷の目は、物珍しさと好奇心に満ちてキラッキラだ。 「雷にゃん苦手な食い物無かったよな?」  レストランへと向かいがてら、何気なく聞いてみる。  フルコースのメニューを見た限りじゃ雷が嫌いそうなもんは無かったが、一応。 「えッ、うーん……? ……あッ! 紫キャベツ苦手」 「へぇ? なんで?」 「色がムリ!」 「……色?」  雰囲気に負けてる雷は、俺が注意するまでもなく声を抑えた。 偉いぞ。 「考えてみろよ。 すでに緑色のキャベツ君が昔から居んのに、なんでアイツは紫色でデビューしたんだ? そんな派手なナリして登場することなくね?」 「ぷっ……っ! 言われてみればそうだな」 「だろッ? 分かってくれて嬉しい! これ誰に言っても理解してもらえねぇんだよ! 味は変わんねぇじゃんって! 俺が言ってんのは味じゃなくて見た目だっての!」 「あはは……ッ」  こんなとこで爆笑をさらうんじゃねぇよ。  紳士御婦人がレストランへと吸い込まれてく前で、俺は口元を押さえて必死で笑い声を漏らさねぇように気を付けた。  こういう独特でガキっぽい感性が雷らしい。 この料理のこんな味が苦手、とか普通の答えなんか、まず返ってくるわけなかった。  いかにも雷が言いそうな事で、笑いが止まんねぇっつの。 「迅……ッ、なんでそんな笑うんだよ。 笑顔クソイケてんな」 「いや……雷にゃんが可愛くて」 「か、かわッ……!」 「紫キャベツは出ねぇと思うから安心しろ」 「……ッ♡ ひゃいッ」 「あとは? 何かある?」 「うーーん……そうだなぁ、……考えたことなかったけど、俺やっぱ色が濃いの苦手だ。 ピーマン君の座を奪おうとしてるパプリカとか」 「ブフッ……!」 「たぶん食おうと思えば食えるんだろうけどさ、口に運ぶときに手がプルプルする。 お前めちゃめちゃ体に害がありそうな色してっけど大丈夫かよ、みたいな?」 「あははは……っ」 「そ、そんなおかしい? 迅の連続爆笑は激レアだな」 「やめろ、もういい、……ッッ」  あーもう、何コイツ。 可愛いな。  お前の小せぇ舌は、身長と同じで成長止まってんの?  野菜に〝君〟付けてるヤツも初めて見た。  色々ツッコミどころ満載で、コイツはやっぱ最高だって感想を抱いた俺はマジで雷の虜。  気張ってセレブホテルを予約したのは完全に背伸びだが、前回の旅館での思い出が苦味で終わってる以上、新しい記憶に書き換えないといけねぇ。  たぶん雷とならどこで何をしようが楽しくて、全部が思い出になる。  でもムードとシチュエーションに拘って再度告りたいっていう、俺にとって一つのけじめ的なもんは譲れなかった。  ──フルコース、雷のほっぺたが落ちるほど美味いといいけど。 … … …  ……思ってたフルコースとはちょっと違った。  後でよくよく読めば分かったんだけど、背伸びした俺は内容を見落としていて、いい方に期待を裏切られたって感じ。  フルコースはフルコースでも、鉄板焼きだった。 しかも目の前でシェフが焼いてくれるアレ。  前菜やドリンクはウェイターが運んでくれて、メインディッシュはシャトーブリアン。 聞き取れねぇからって、雷が何回もシェフに〝シャトーブリアン〟を言わせていて、思わず吹き出したのは俺のせいじゃねぇ。  あと一つ、予定外な事があった。  部屋に戻ってきて一言目、神妙に「ごちそうさまでした」と雷に手を合わせられた俺は、何もおかしくねぇのに口元が緩む。 「──紫キャベツ、悪くなかっただろ?」 「……まぁな。 食わず嫌いだった」 「良かったじゃん、食えるようになって」 「うむ。 俺はまた一つオトナの階段をのぼった」 「大袈裟」 「うるせッッ」  前菜の蓮根サラダが今日に限って変更になったらしく、サラダの上に乗っかってたのが例の紫キャベツだった。  「うッ」と目を見開いた雷に、こっそり俺の器に移せと言ったんだが聞く耳を持たず。 ただ、鉄でも食ってるみてぇなツラした雷の表情が、みるみるほぐれていった。  どうやら今日、お子様な雷は紫キャベツを克服したらしい。 サラダ完食後の「緑色のキャベツ君に顔向け出来ねぇ」って呟きはスルーしたけど、正解だよな? 「なぁなぁ! 迅〜〜、見てみろよ。 夜景キレイだなぁ」 「あぁ。 そうだな」 「あ、……ちょっ♡」  窓辺ではしゃぐ雷の元へ行き、腰を抱いて引き寄せる。  苦手なもんが克服出来て、満腹になって、何より。  俺もちょっと雰囲気に浸りながら、窓の外を眺めた。  山奥じゃねぇから星空が綺麗とも言えねぇ。  都会ってほどでもねぇから絶景とも言えねぇ。  でも雷は、この景色を〝キレイ〟だって。 見てみろよって、俺を呼んだ。  無邪気なツラして、だが俺に触られたドキドキを全身から醸し出して、耳まで真っ赤になって俺に体重かけてくる。  ……クソ可愛い。  これ以外、言葉が見付かんねぇ。

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