108 / 213

⑪情交 ─迅─⑥

 雷をベッドの中央まで運んで、ビビらせねぇようにゆっくり横たえた。  冷たいシーツの上に寝転んだ雷から気丈に見つめられ、ドキドキが伝染する。  何かを言いたそうに、撫でてもらいたそうに、もっさん達と同じような猫目でジーッと見てくる。  てか雷は、何の意地だか俺と目が合うと瞬きしねぇんだよ。 見開いてるわけじゃねぇんだけど、当然目が乾くからだんだんと潤んできて、最後には泣きそうなツラになる。  そんな目で見つめられてみろ。  誰でも即落ちだっつの。 「……雷にゃん。 そんな俺のツラガン見してねぇで、背中に腕回せ」 「な、な、なんで……?」 「いいから」  照れてしょうがねぇうるうる攻撃を何とか躱して、雷の腕を取った。  手首掴んで俺を抱きしめろって言っただけで、他のコトなんて何も眼中にありませんとばかりに、童貞男子は真っ赤なツラして照れやがる。 「……ん、……こう?」 「もっと」 「えッ、もっとって……。 こう?」 「もっとだ」 「えぇッ? 意味分かんねぇ、何コレッ?」  恐る恐る俺の背中に回ってきた腕が、物足りなかった。  服着たまま抱き合うのとは全然違うからな。  触れ合ったら我慢がきかなくなるって、本能的に分かってんのかもしんねぇ。  何しろ俺達はオス同士だし。 「こうやれって言ってんの」 「あ……ッッ♡」  照れ屋な飼い猫のもどかしいハグもいいが、俺はもっともっと密着したかった。  ギュッと抱きしめて「こうしろ」と囁くと、小さく鳴いて同じだけ抱きしめ返してくれる。  腕にすっぽり収まる雷はチビだし、同じ男とは思えねぇくらい肩幅華奢だし、これだけ密着してやっと感じるほどの薄い胸ではあるんだが、タオルで守られた俺の息子は何故かもう半勃ち。  不名誉な伝説がまったく役に立たねぇ。  抱き合ってるだけで興奮するって何なんだ。 童貞か。 「あったけぇだろ?」 「うん……♡ ぬくぬくだぁ♡」 「……雷にゃんいい匂い」 「迅も一緒じゃん! ……ヘヘッ♡ 俺達おんなじ匂い」 「………………」  は? いや、……は?  ナチュラルに照れ笑いしながらそんなこと言っちまうの?  俺の体は正直で、すでに半勃ちのチン◯がピクッと反応した。  ピュアっピュアな童貞男子の無邪気さの前では、やっぱりヤリチン伝説なんか通用しねぇじゃん。 「……何だそれ。 クソ可愛い。 ハンパ無ぇ。 語彙力無くなる」 「う、ッ? 迅さん急にヤンキー出てまっせ、……って、迅……苦し……ッ、早まるな! 俺はまだ死にたくねぇぞぉ!」 「雷にゃんが可愛すぎるからいけねぇんだろ。 なんだよ、俺達おんなじ匂いって。 パワーワード過ぎ」 「そのままの意味じゃんー! それをそんな風に受け取るとは思わな……んんッ♡」  可愛すぎて憎たらしいとしか言いようのない唇に、迷わず噛み付いた。  絞め殺す勢いで抱きしめた後だから、舌を捕らえやすい。  俺の鼻先が雷の柔らけぇほっぺたに食い込むほど、深い場所まで舌を突き入れて絡ませた。  背中に回っていた腕が、弱々しく俺の肩を押してくる。  鼻からハートマーク付きの甘ったるい吐息を溢して、もどかしそうに足をモゾモゾ動かす雷は慣れねぇキスに毎度必死だ。 「雷にゃん、どっちのキスが好き?」 「ふっ、んッ♡ ん、ッ……♡ んぇッ?」  唇を離してやると、一発抜いた後みてぇにフニャフニャなツラして、おまけに腕力も無くなってる。  本人にも言ったが、キスの合間に喘ぐヤツも、余韻に浸るヤツも、俺は初めて見た。  慣れてねぇからだってのは分かってんだけど、それならどっちが好きなんだってささやかな疑問を持つのは、彼氏として当然。  余韻真っ只中で油断してる唇に、チュッと一度キスを落とす。 「これか、……」 「ん、んッ♡」 「これ」 「んむぅッッ! ん、んッ……んッ……♡」  二回目はバッチリ舌を絡ませた。  キスの角度を変えて、引き気味の滑った塊を吸い上げる。 じゅぷっ、と粘液の交わる音がしたのを合図に唇を離して、口内に溜まった唾液を飲み干した。  舌なめずりしつつ、キスだけでイき顔をする雷に再度聞いてみる。 「どっち?」 「……はぅ、……ッ、ど、どっちかと言うと俺は……チュッの方……」 「舌入れない方ってこと?」 「…………うん」 「なんで?」 「チュッてされるとドキドキッてする、から……すき。 ベロ入りはエッチな気分になるんだよ。 そ、その……なので、外であんま、ベロチューはしないでほしいな、と……」 「………………」  やられた。  なんの気無しの興味と疑問を投げかけた俺の方が、惚ける羽目になった。 「可愛いかよ」 「いや別に俺、狙って言ってるわけじゃ……ッ」 「分かってる。 天然だから可愛いんだよ。 てか質が悪い」 「んんッ……♡ ん、むぅッ、んッ♡ んッ……♡」  可愛すぎてムカつくんで、押し付けた唇を割ったあと舌を甘噛みしてやった。  ビクビクッと体を震わせた雷の体を抱きしめて、非力な抵抗を受けようが構わず呼吸諸とも奪ってやる。  タオル越しに膨らんだ俺達のチン◯がソワソワしてんぞ。  いつまでキスしてんだって。  でもしょうがねぇじゃん。 コイツの小せぇ舌、めちゃめちゃ美味えんだから。 「ぷは……ッ! 迅、おま……ッ、今俺が言ったこと聞いてた!? 俺はチュッの方が好きって……!」 「聞いてた。 でもここは外じゃねぇし」 「あ……ッ」 「やらしいことしようとしてるし」 「う……ッ」 「エッチな気分になってもらわねぇと、……困るし」 「直耳にイケボはやめぃッ」 「……声はどうしようもねぇよ」  柄にも無く照れ隠しの意味もあったんだ。  好きなヤツから好き好き言われて照れない方がおかしくて、散々俺の予定を狂わせてくるから反撃しようとしたってのに……まさか返り討ちに遭うとは。  ……やるな、雷にゃん。

ともだちにシェアしよう!