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⑫ツンデレ彼氏が甘々なんですけど ─雷─⑩

 昼夜逆転しちまったけど、あのあと迅は俺の頭をなでなでして寝かしつけてくれてたっぷり眠った。  見てくれから何から似合い過ぎてた迅はともかく、金髪チビヤンキーな俺には全然相応しくねぇゴージャスなホテルでの一日を、エッチして寝てるだけで過ごすなんて贅沢だった。  恭しく見送りまでされてタクシーに乗って、ガタンゴトンと揺れの激しい電車で見慣れた街に帰ってくると、晩メシ食った薄暗いレストランとかキラキラな夜景とか全部、夢だったんじゃねぇかと思っちまう。  指一本レッスンの他にも色々経験しちまって、オトナの階段をもう一段のぼった俺はまだ、ふわふわ夢見心地。  駅前のコンビニで買ってもらったプリン味の棒付きキャンディーを咥えて、スマホをいじってる何気ないツラさえイケてる彼ピッピに寄りかかる。 「…………迅」 「ん?」  日曜の夕方はそんなに混まねぇらしい快速電車でも、コイツは視線を集めてる。  隙あらば連絡先を渡してきそうな肉食系女子は居なさそうだけど、迅は俺の彼ピッピなんだからあんまり熱っぽく見ないでほしい。  刺さってくる視線に耐えらんなくなってきて話しかけると、スマホに落ちてた視線が俺に降ってくる。 プラス、「どした?」ってイケボで囁かれながらの肩組み。  ふふんっ。 人目を気にしない迅サイコー。  今なら、ちょっと照れくさくて言えなかった夢見心地のお礼、言えるかも。   「あのさ、……ありがと。 ホテルとかレッスンとか、……色々とお世話になりました」 「いえいえ」 「あと、何回もカラダ洗ってくれてありがと。 めんどくさかっただろ?」 「俺が汚したんだから当然じゃん?」 「うッ……! そ、そりゃそう、なんだけど……」 「腹トントン、気持ち良かったろ?」 「きッ!? き、きき気持ち良かっ……ッッ……」  それはこんな場所でしていい話じゃねぇだろッ?  てか思い出させるなよッ。 記憶に新しい精液まみれだったえちえちな時間が、急に頭ン中によみがってくんじゃん。 「あ、あれはっ……し、しんどかった。 精液出さねぇでイくのはマジで体力持ってかれる。 ……新事実発覚、新体験って感じ」  小声でボソボソ、〝腹トントン〟を思い出して照れる。  チン○をもみもみされつつ、下腹を柔くポンポンされただけでイった。 かなり時間はかかったけど、迅は俺がイくまでやるつもりだったみたいでしつこかったんだ。  新感覚の絶頂はちょっとだけ怖かった。  「素質ありまくりだな」ってニヤニヤしてた迅はカッコよかったが、未体験ゾーンに引きずり込まれた俺はまさかのベッドの上で放尿フェアしちまうんじゃねぇかと気が気じゃなかった。  まぁそれも、途中から〝どうにでもなれ〟に意識は変わっていったんだけど。 「……でもな、雷にゃん」 「何だよ」 「本番セックスの時は今日の十倍……いや百倍はしんどいかも」 「えぇッッ?」  迅の野郎……ッ、イケボでエロ発言の耳打ちはやめろって言ってんのにッ。  しかも内容が内容だ。  仲良しこよしで肩を組んでる俺達が、周りから一体どんな風に見られてんのかを気にしてた俺の悩みはちっぽけ極まりねぇ。  とりあえず、味わってたプリン味のキャンディーを口から出して小声で応戦する 「それマジ……? な、……なんでそう言い切れんの……?」 「つながるから」 「ツ、ツナ……ッッ」 「俺は梅が好き」 「おにぎりの具じゃねぇよ! いやッ、てかその……本番はそんなにしんどいのか……? 俺に耐えられるしんどさ?」 「んー……。 俺のことが好きなら耐えられる」 「ンなの答えになってねぇよぉぉ……ッ」 「ん?」 「俺、すでに迅のこと大好きなんだぞッ? 誰にも取られたくねぇって言っただろッ。 浮気したらチン○緑に塗って、一生誰ともエッチ出来なくする罰も決めてんだッ。 俺は迅がいいから、レッスンもがんばった。 迅が喜ぶなら、早くツナがりてぇとも思ってる。 好きな気持ちはモリモリあるけど、それとエッチのしんどさは関係な……ッッ」 「……はいはい。 熱烈な告白ありがと。 また性欲モンスター復活しちまうから、その辺でやめとこうか」 「むぐッ……」  言ってるうちに白熱してきた俺の口が、迅の手のひらで塞がれる。  本番エッチの耐久性が、俺の迅への気持ちありきっていうなら、ンなのとっくにクリアしてんだもん。  こんなとこで黒豹に進化されても困るから黙るけどな?  好きって気持ちがあれば乗り切れるって聞いたら、ドキワクすんじゃん。  指一本でヒィヒィ言ってたくせに、単純な俺はそれだけで張り切っちゃうじゃん。 「迅のこと大好きだって素直に言っただけだろ……」 「それがよくねぇんだよ」 「ヘッ!? 意味不……ッ」  白熱した俺が悪りぃのかよ。  不満タラタラで唇尖らせると、肩をグイッと抱かれた。 拗ねた俺を宥めるように頭をポンポンされて、一瞬で機嫌が治る。  迅め……俺を甘やかす術を知ってんな。 「ふぁ……♡」 「なんでトロ顔してんの? 可愛いけど」 「迅がなでなでしてくれんの好きって言ったじゃん~」 「………………」 「次はいつレッスンする?」 「声抑えられるんなら、いつでもどこでも」 「ヒェ……ッ♡」 「何回も言ってるけどな、焦んなくていい。 俺は雷にゃんとこうしてるだけでオキシトシン大量分泌してっから」 「お、おき、おきしん、……? ナニソレ?」 「幸せホルモン。 雷にゃんも出てんじゃねぇの?」 「なんだそのハッピーホルモンってのは! 俺も出てるぞッ♡ たぶんめちゃめちゃ出てるッ♡ ヘヘッ♡」  くぅぅ……ッ♡ そんなの、俺と居るだけで幸せだって言ってるようなもんじゃん。  ただ空いてる電車に横並びで座ってるだけ。  密着してヒソヒソ話してるだけ。  同じ時間を過ごして、俺たちなりにイチャイチャしてるだけ。  間違いなく電車は二人それぞれの最寄り駅に向かってる。 知ってる景色が目に飛び込んでくると、迅と離れなきゃなんねぇ時間も迫ってるってことで。  それがすごく寂しい。  ほんとはまだまだ、迅とベッドの上でゴロにゃんしてたかった。 迅に頭撫でられてると、余計にそう思う。  すると迅も、俺と同じタイミングで嬉しいことをぼやいた。 「はぁ、……帰りたくねぇな……」 「……俺も。 迅と居たいよ……なでなでしてもらいながら寝たいよ……」 「……犯すぞ」 「えッ?」 「あんま軽率に可愛いこと言うな。 バカ雷にゃん」 「おいッ、なんで悪口……あッ、ちょっ……耳にチューするなよ……ッ♡ 人に見られ……」 「雷にゃん、好き」  口付けられた耳を押さえてあたふたする俺に、イケボ囁きで追い打ちをかける甘々彼ピッピ。  迅を見上げると、俺の鼻に迅の鼻先をあててきた。 ここじゃ口に出来ねぇからって、鼻でキス……。  いやこれも充分なことしてんだけどな?  周りに人が居なくなった。 俺と迅だけの空間になった。  薄いピンク色で覆われた俺たちの間には、オキ何とかっていうハッピーホルモンがぐるぐるしてる。 「……俺も、……好き」  こんなとこで言わせるなよ、と盛大な照れに見舞われたが、雰囲気とホルモンに負けた。  くっついた鼻先と間近にある迅の甘々な視線が嬉しくて、恥ずかしくて、どこまでも幸せで。  このまま一緒に居られたらいいのに。 恋愛ドラマで報われねぇカップルが逃避行する気持ちが、今なら分かる。  帰りたくねぇな、……迅。

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