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⑬クラスマッチ ─迅─

… … …  通ってる高校は偏差値がどうこうとかそんなレベルじゃない。  中間・期末の試験に慌てる奴も居なければ、授業中まともに席についてる生徒の方が少なくて、いつでもどこでも喧嘩が始まっちまうようなヤンキーの巣窟っつーか、そういうとこ。  八割ヤンキー、二割がオタク。  女子生徒も居ることは居るが、他の共学校に比べて極端に少ねぇ。 そりゃこんなガラの悪りぃ男がうじゃうじゃ居る高校に三年も通わせるとなると、親は心配でしょうがねぇよな。  まぁそんな感じで、ヤバイ奴らばっかのココでは文化祭、体育祭が無い。  理由は〝真面目に参加する生徒が少ない〟、〝生徒同士の乱闘が始まる〟、〝拓けたイベントを開催すると他校から奇襲され、乱闘が始まる〟、とほぼほぼ喧嘩沙汰になることを恐れた教師連中のチキンな判断だ。  ただし、学生の本分を重んじるめんどくせぇ奴(偉い人)がそれに待ったをかけた。  〝学生としての思い出を作る機会すら与えないのは、由々しき問題である〟  ……は?なんだけど。 そんな堅苦しい正論要らねーって。  どっちにしろ乱闘が始まるんだから、何もしねぇのが正解だ。  この時期になると俺は三年間、ストレスで胃液が上がってくる。 無論、喧嘩にビビってるわけじゃなく、〝みんなで力を合わせましょう〟な学校行事ってもんが心底キライだからだ。 「今年は無いと思ってたのに。 だっる……」  チビ可愛い恋人を膝に乗っけて餌付け中、俺は机に肘をついて溜め息を連投した。  今日、全校集会で明かされた〝学年縦割りクラスマッチ開催〟予告。  十一月も終わろうかっつーのに?  期末終わったら冬休みが始まるこのタイミングで?  さすがバカ校。 進学する奴なんかひと握りも居ねぇかもだけど、俺ら三年は一応受験生でもあるんだがな。  体育祭も文化祭も無いここでの、一年に一度の唯一の〝思い出作り〟。  毎年十月に、思い出したようにして開かれてたクラスマッチが、今年は無かった。   雷にゃんを捕まえるのに必死で忘れてた俺は、そういえばそんな行事あったっけ……と反吐が出そうになる。  何せクラスマッチ当日に休んだ奴は、進級に関わるほどのペナルティーを与えられる、それは言うまでもなく強制参加行事。  もちろん当日に問題行動を起こしたら、即停学処分決定。  無理強いされる事を嫌うヤンキーにとっては、高校くらいは卒業してくれっつー親の願いと教師からの板挟みで反発したいのは山々でも、スネかじりの身分じゃどうしようもねぇ。 「しょうがねぇじゃん。 てか毎年の事なんだから今さらだろ。 迅の嘆きも三年目」 「まぁな。 今年で最後だと思うと嬉しくて嬉しくて涙ちょちょぎれそうだ」 「えー、なんでダルいんだよ? 俺は楽しみだけどなー! バスケもしたいしー、バドミントンもしたいしー、バレーもしたいしー、サッカーも!」 「いっそ雷にゃんは全種目出場したら? 迅の分まで」 「えッ、そんなこと出来んの!?」 「気が早えよ。 まだ今年は何やるかっての決まってねぇんだから。 てか雷にゃんこっち向け」 「うぁッ!? ちょっ……いきなり動かすなよッ! 危ねえだろッ♡」  クラスマッチにノリノリな雷にゃんは絶対可愛い。  翼にだけそのツラ見せてんのがムカついて、軽い体を俺の方に向かせた。  唇の端っこにメロンパンの食べかす付けて文句言ってるけど、至近距離で俺を見た雷にゃんの目がドキドキしてんの。 「どのツラ下げて、ンな生意気なこと言ってんの?」 「このツラですー。 下の下で悪ぅござんしたぁー」 「下の下じゃねぇって言ってんだろ。 自分卑下すんのやめろ」 「ヒゲぇ~? どこ? どこに生えてる?」 「……自分を落とすようなこと言うなってこと。 ちなみに雷にゃんはつるつるだ。 ヒゲ生えねぇの?」 「いやたぶん生えてる。 気付かねぇだけで」 「気付かねぇとかあんのか」 「あるある! そう言う迅こそつるつるじゃん~。 お手入れしてんの?」 「そりゃあな。 ショップ店員だし」 「最近お前、ふた言目にはそれ言ってね? 仕事大好きなんだな」 「あぁ。 言い忘れてたけどシフト増やしたんだ」 「えッ!? 週末だけじゃねぇのかよ!」  まるで男とは思えねぇツルサラな顎を撫でながら、つい昨日決まったシフトを反芻する。  ぐぬぬッと不満そうに尖った唇に見惚れた。  俺らの会話を興味津々で聞いてる翼がここに居なかったら、確実に〝ねちっこい〟キスしてたんだが。  指一本レッスン以降、さらに俺らは人目も気にせずイチャついてる自覚がある。 一歩踏み込んだエロいことしたからなのか、あれから二人の間に遠慮ってもんが無くなって、周りが見えなくなったと言えた。  俺ばっか夢中なのかと思いきや、可愛くてしょうがねぇ雷にゃんも同じ気持ちみたいで普通に嬉しい。 「なんでそんな勝手なことするんだ!! 俺たちの貴重なラブラブタイムを何だと思ってんの!? うわぁぁんッッ!」 「雷にゃんにメシ食わせたいから頑張るんだよ。 色々連れて行きたいし。 てか今からそんな情けねぇこと言っててどうすんだ。 俺が就職したらもっと会えなくなんだぞ?」 「ハッ……!」 「寂しくて我慢できなくなったーとか言って浮気したら殺すからな?」 「うッ……!? お、おい、迅……猛獣の目になってんぞ……?」 「なんでだろ。 雷にゃんが浮気したとこ想像したら笑っちまうんだが」 「そ、そのツラ笑ってんのーッッ!?」 「ん? めちゃめちゃ笑顔だろ?」 「…………」  なんでそんな怯えるんだよ。  爽やかに笑えてる自信しか無えのに。  堂々と盗み聞き出来る距離にいる翼の「迅の束バッキー怖え……」って呟きに、雷にゃんは必死の形相で何回も頷いてる。  いや待て待て。 二人とも俺が異常だってツラしてビビってやがるが、肝心なこと忘れてんぞ。  そもそもの話、雷にゃんが浮気しなきゃ死者が出ることはねぇんだよ。  

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