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⑬クラスマッチ ─迅─⑩

 サッカーって、十一人対十一人でやるスポーツだとは知らなかった。  とりあえず恰幅のいいヤツをキーパーに任命して、守りのディフェンダー、つなぎのミッドフィルダー、攻撃のフォワードをワクワク軍団の中から見繕った。  ちなみに俺は満場一致でフォワードだ。  見様見真似でボールを蹴り、時間を忘れて運動場を走り回った。  敵の居ないやっつけ練習を、辺りが暗くなるまで……教師が「そろそろ帰れ」と声を掛けてくるまで夢中でやった。  俺はガキの頃から団体スポーツとは無縁だった。 気を使うのも周りを見て動く事にも慣れなくて、最初は戸惑ったんだけど。  でも全員が同じ目的のために〝協力〟して行動すんのは何か……悪くなかった。  最後だし、と思うと熱も入って、俺らしくないイイ汗をかいた気がする。 「……ふぅ、……」  午後七時過ぎ。  ワクワク軍団らも他のクラスの連中も全員が帰宅した真っ暗闇の中、正門前にある花壇に腰掛けた。  疲労感からくるため息を何度となく吐いて、ブレザーを羽織る。  同じく教師からストップがかかるまで体育館に居た雷に、久々に一緒に帰ろうと言い出したのは俺だ。  着替えたいからついて来るなと言われ、こうしておとなしく待ってる俺は雷にだけ従順。  待ちぼうけから数分、背後から足音がした。  早くね?と思い振り返るも、それは金髪チビ可愛い俺の恋人じゃなかった。 「久々に体動かしてお疲れっすねー」 「……何だよ、まだ残ってたのか」  ニヤけたツラで近付いてきたのは、翼だった。  「ボール片付けてた」と言う見た目チャラヤンキーな悪友も、大概 雷に毒されている。 「雷にゃんは? さっきまで体育館居たろ?」 「汗かいて気持ち悪りぃから体操服で帰るんだと。 着替えてくるって」 「迅はついて行かなかったんだ?」 「拒否られた」 「ブハッ……! なんでまた」 「俺が雷にゃんに手出すからだろ」 「たしかにー。 恋人同士が放課後の教室に二人っきり……背徳感……絶好シチュだよなぁ。 一回キスしたら止まんなくなるやつ」 「………………」  言い当てられてムッとしたが、つまりはそういう事だ。  当たり前のようについて行こうとした俺に、雷はガチテンションで拒否りやがってキレそうになった。  けど、なんで俺がここでおとなしく待ってたかっつーと、ほっぺたをピンクにした雷が「ちゅーする気だろ」とかほざくから。  それがあんまり可愛くて、言う事聞いただけだ。 「迅、マジな話してい? いま雷にゃん居ねぇから聞くけど、ぶっちゃけもうヤッた?」 「………………」 「え、シカト?」  何だよ、急に。 今まで、一度たりとも俺のセックス事情に口挟んできた事なんか無かっただろ。  てかコイツ、俺が一人になるチャンス窺ってやがったな? 「いや、……お前まだ雷にゃん狙ってるとか言わねぇよな?」 「俺がお前のステディ狙うかよ。 命を粗末にはしたくねぇんで」 「翼は信用出来ねぇから聞いてんの。 俺の女に手当り次第に手付けてただろ。 知ってんだからな」 「それは迅が切った後じゃんー! 大目に見てくれよ」 「大目に見るも何も。 こんな事わざわざ言うつもりなかったんだけど、雷にゃんの事だけは何があっても切ったりしねぇから。 それだけは頭に入れとけ」 「やけにご執心だねぇ。 そんな良かったんだ?」 「何が」 「アナル」 「………………」  このエロピアス野郎……そうくるか。  空気感で、俺が一番指摘されたくねぇ事だって分かんねぇかな。  何が悲しくてそんな事ぶっちゃけなきゃなんねぇんだ。 イラつく。  返事を濁すのもおかしな話なんで、俺は黙った。  だがそれが、翼のさらなる好奇心を生む羽目になる。 「え、ウソ……? 待てよ。 百戦錬磨の迅様が、まさかまだアナル童貞って事は……」 「……そのまさか」 「えぇッ!? え、えぇーーッッ!? な、な、なんで……ッ? アナル怖えのッ?」 「違ぇよ」 「慣らすの大変でめんどくせぇとか?」 「……やっぱ大変なのか」 「はッ?」  俺が素直にぶっちゃけると、不躾に聞いてきた本人がなぜか驚愕している。  こんなのガラじゃねぇって、ンなの分かってた。 雷のケツを狙いまくってた翼には、死んでも教えたくはなかった。  ただ翼が興味津々なように、アナル童貞な俺もそこそこ疑問点があったんだ。  まぁ黙って知らん顔してりゃ良かったんだろうけど、俺には未知の世界。 そこだけは翼が先輩なのは確かだ。 「拡張ってどんくらいやりゃいいの?」 「どんくらいって……個人差ありますが。 あぁ、なんだ。 今拡張してんの?」 「まだ一回だけ。 しかも指一本」 「指一本かー……先は長いな。 迅のデカそうだし」 「……否定はしねぇ」 「その点、女は楽だよなー。 いくらブツがデカくても前戯してりゃ濡れるしなー」 「まぁな。 クソ発言だけど」 「でもな、迅。 アナル拡張も楽しいぜ? 道具使って喘がせんのたまんねぇよ? 手っ取り早く道具頼れよ」 「……考えとく。 俺あんま焦ってねぇんだよ」 「いやいや、そうは言っても早くヤりてぇだろ?」 「ヤりてぇけど、コトを急ぎたくねぇの。 雷にゃんのペースに合わせてやんねぇと」 「ペースねぇ……」  翼には、俺の本心が綺麗事に聞こえてんだろうな。  大事にしてぇから、とダメ押ししても、何にも響いてねぇこの表情。  こないだ雷が家に来た時も、結局ヌきっこ大会を二回開催して閉幕した。 指一本レッスンがもはや遠い過去となってんだけど、俺はマジで焦ってねぇんだよ。  こんな事、ヤリチン伝説を継承しようとしてる翼にいくら言ったって伝わんねぇんだろうがな。 「俺にはよく分かんねぇ〜。 毎日でも拡張してすぐにでも挿れてぇけどな、俺なら」 「お前と一緒にするな」 「欲求不満で爆発しそうになったらどうすんの? 前カノとかセフレのキープ居ねぇの?」 「やっぱお前分かってねぇだろ。 俺はもう、雷にゃん以外の人間に勃つ気しねぇんだよ。 マジで興味無ぇ。 女が目の前に全裸で現れても素通り出来る自信がある」 「それガチ?」 「ガチ」 「すげぇな。 据え膳が据え膳じゃねぇって?」 「俺は雷にゃんさえ居ればいいから」  こう言うと、揶揄いまじりに口笛を鳴らす新しいヤリチン伝説継承者。  ……こっ恥ずかしい。  さすがにぶっちゃけ過ぎやしねぇか、俺。  ある意味これはコイバナじゃん。 思わぬとこでアオハル到来してんじゃん。  俺の発言の二割くらいしか理解出来てねぇ翼も、マジで好きなヤツが現れたらコロッと変わるだろ。  アナル童貞だが幸せ絶頂だぜ、俺は。 ……なんてな、と一人で笑っていると、翼がボソッと俺の名前を呼んだ。 「なぁ、迅……それにしても雷にゃん遅くね?」

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