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⑯仕返し……!? ─雷─⑩
ハンカチとかタオルとか気の利いたもんを持たねぇ俺は、走りながらパッパッと手を振って水気を飛ばした。
かわちい恋人置いて、どこまで行きやがったんだあの野郎ッ。
「──〜〜してたんだろ、いいから見せろよ」
渡り廊下手前まで走って、やっと彼ピッピの後ろ姿を確認した。
「……あ、ッ」
ただ迅は、一人じゃなかった。
誰かの腕を掴んで、低い声で「早く」と何かを急かしてる。
え、……あれ誰? 女?
目をゴシゴシッと擦ってよぉく見てみると、茶色い巻き髪と短えスカートが見えた。
そいつは、迅から腕を掴まれてポポッとほっぺた赤くしてる、うちの学校の制服を着た女子……もとい、ギャルだ。
てか、なんで迅はあのギャルを捕まえて問い詰めてんだ? エロモード全開だったのに、俺が二発目を発射してから目の色変わってたよな。
ここは放課後、滅多に誰も寄り付かねぇ(迅が居座ってるってみんな知ってるからだ)。連れ込まれる前トイレ付近に人なんか居なかったし、迅がどうやってギャルを察知して飛び出して行ったのか……そんでこの現場。
何がなんだか、俺にはさっぱり分かんなかった。
しかも、しかもだ。
近寄って行くと、興奮したギャルからとんでもねぇ言葉が飛び出した。
「わ、私、盗撮なんかしてないわよぉ!!」
そりゃそうだよな、うん。
盗撮ってワードはおまわりさんのご厄介になるくらい、犯罪レベルのヤバイことじゃん……って、えぇえぇッッ!?!?
とう、さつ──ッッ!?
なにを!? 何を!? ナニをーーっっ!?
「いや別に拡散するならしてもいんだけど、俺にもデータくれ」
「そんなデータ無いってばぁ〜!」
「じゃあなんでここに居た? 序盤から聞いてたんだろ。悪趣味だな」
ナニを撮られたか分かったもんじゃねぇのに、拡散してもいいとか言っちゃダメだ!!
バカな俺でも、さっぱり分かんなかったアレコレが見えてきた。
このギャルが、ナニかを盗撮した。迅が問い詰めてることからも、そのナニかってのはたぶん、たぶん……俺たち。
迅の連続溜め息で、バリバリ濃いメイクの顔をくしゃっと歪ませたギャルがとうとう音を上げた。
「藤堂くん、盗み聞きしてごめんなさい〜! でもほんとに盗撮なんかしてないからぁ! もう離してよぉっ…」
そんなこと言いながらすり寄ってんじゃん!!
離してよぉ〜と甘えた声を出しつつ自ら迅に寄って行ってるの、俺はガッツリこの目で見たぞ!!
いやいや、ここは雷にゃん落ち着こう。
ギャルがこれみよがしなスリスリ〜を迅にかましたのは、今は脇に置いといて。
さりげなく迅を取り返そうと、ブレザーの裾をクイッとした俺は迅を見上げて聞いてみた。
「迅……ソイツ、盗撮したの?」
「盗撮じゃなきゃ盗聴だろうな」
「…………ッッ」
迅は俺をチラッと見るにとどめて、ギャルに向き直る。
どっちもヤバイじゃん〜〜!!
なんだよ、ここは犯罪が平然と行われていい異空間なのか!?
てか迅はなんでこんなに冷静なんだ!
いつもいつでもクールイケメンだからって、ここはビックリ仰天していいとこだろ!?
「俺らの弱味握ったつもりで浮かれてんだよな。あーあ、ンなの使って何したかったんだろうな?」
「と、ととと盗聴って……ッ」
「お前、単独犯じゃねぇだろ」
「き、き、ききき聞かれてたって事ッ? さっきの……ッ?」
「どんなんだよ。答えろ」
「ンなの恥ずか死にすぎて頭爆破しちまうッッ!!」
「うるせぇよ雷にゃん! ちょっと黙ってろ!」
「ぴえん!!」
なんで俺が怒られるんだ!! 納得いかねぇ!
あぁでも、迅はギャルに問いかけてたのに、俺がいちいち突っ込んだからキレられたのか……てことは俺が悪い、のか?
ぴえん。
「私……っ、私……っ、私……っ、ねばっこくないもーん!!」
「あッ……!」
俺と迅のやり取りを、バッサバッサしたまつげでジッと見てたギャルが突如発狂して走り去って行った。
途中、カシャンッと何かを落としたんだけど一目散に駆けていく。
それに気付いた迅はゆっくり歩いて、小さくて四角い機械?を手に取ると、ニヤッと不敵に笑った。
「あぁ、あれ、あのネバネバギャルだったのか」
「なぁッ! ナニを盗聴されたっていうんだよ! なぁッ!」
「ナニって……さっきの〝あんあん〟」
「────ッッ!?!?」
四角い機械を俺の前にチラつかせて、笑みを絶やさないイケメン彼ピッピ。
絶句した俺は、だんだん顔が熱くなってきた。
いやいや、……いやいや、……さっきの〝あんあん〟、あのギャルに聞かれてたの?
最初から最後まで?
ウソだろ、……え?
俺……気絶していい?
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