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⑰仕返し ─迅─②

 二発も抜いた雷に対し、俺は一発も抜かねぇままおあずけ状態。  ラジオAVのせいでムラムラしてきたんで、雷と太ももエッチでも……とベッドに押し倒した瞬間、雷の母親が帰ってきた。  また、おあずけ。三回も勃起中のチン○を宥めてやんなきゃなんなくて、さすがに凹んだ。  しかし今度の邪魔は雷の母親。  〝邪魔〟って言葉も失礼だ。 「迅くんは就職決まってるんでしょ?」 「まぁ、……」  水上家の野菜ゴロゴロカレーを咀嚼しながら、突然のガチ問いに頷く。  かなり時間をかけてチン○を宥めてる間に、晩メシの支度をしていた母親が俺に「迅くんも食べて」と言ってくれて、現在三人で食卓を囲んでいた。  何やら雷の父親が飲んで帰って来るとかで、炊いた米が余るとプンプン怒ってたんで空気を読んだ。  我が母親も似たようなことを言ってたのを思い出し、無下には出来なかった。  ちなみに水上家のカレーは、結構辛口だ。 「雷はどうするの? お母さん進路希望の紙には就職に丸したけど」 「うーん……」  母親の言葉に、雷はモグッとカレーを頬張ってムッとした。  ここで新たな発見。  コイツ、カレー皿とスプーンまで子ども用だ。しかもどっちも猫の足跡柄。  可愛いかよ。てかどんだけ猫好きなんだ。  真面目な話題にしかめっ面してんのも可愛いが、まぁ俺が居たらそういう話題が出てもおかしくないよな。  俺は自分が進路決まってるからって、雷の進路のことすっかり忘れてた。  現実的に考えてまだ俺にもそこまでの甲斐性が無ぇくせに、もう雷を養う気で居たからだ。 「いやぁ……夏休みから色々あってそれどころじゃなくてだな……」 「色々って何なの?」  スプーンを咥えたまま、俺をジロッと睨んでくる。  行儀悪いぞ、と窘める前に、その〝色々〟が俺とのアレコレだと分かると黙ってるのも違うよな。 「お母さん、あんま叱らないでやってください。たしかに雷はこの夏から色々ありました。進路なんか考えてらんねぇくらい、色〜〜んなコトが」 「うん、迅くんがそう言うなら叱らないでおくけど……。その色々とやらが気になるのよねぇ」  この際だから俺たちの関係を暴露っちまうか? 言っていいなら言うけど、と雷を見てみると、ブンブン首を振っていた。  ……だよな。  こんなデリケートなコト、ポロッと晩メシ時に口にしちゃいけねぇよな。  分かった、と頷いてやるも、スプーンをカレー皿にグサッと差し込んだ雷がいきなりキレ始めた。 「い、い、色々は色々なんだ! ちゃんと考えるから毎日ガミガミ言うのやめろ!」 「ガミガミなんて言ってないじゃない!」 「はぁっ? どの口がンなコト言ってんの!? 朝起きて「おはよう」の前に「進路どうすんの」って聞くじゃん! 最近毎日そればっか! 今まで何にも言わなかったくせに!」 「だってしょうがないじゃない! お母さん、あんたが高三なの忘れてたんだもん!」 「うっかりさんめ!」 「そうよ、私はうっかりさんよ! だからあんたもそのうっかりさん受け継いでるでしょ!」 「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」  いや、どんな口喧嘩だよ。  最後ディスりあって終わってんじゃん。俺が仲裁に入るなんてよっぽどだぞ。  顔はあんま似てねぇ親子だが、サイズ感はそっくり。口調とか言葉のチョイスとかも似てる。  ここは俺が、〝うっかりさん〟な二人を落ち着かせるか。出来るか分かんねぇけど。 「んーっと。お母さん、とりあえずうちの学校って、進学も就職もそんなイイとこ斡旋してもらえねぇと思うんで、進学する気無いんならフリーターって手もあります」 「フリーター……?」 「フリーターねぇ……」 「今よく聞くじゃないっすか。せっかく就職しても一年も続けらんねぇ若者が増えてるって。専学とか大卒でもそんななんすよ? それならバイトしながら自分に合ったもん探す方が懸命っしょ。金も稼げて、社会勉強も出来て、自分に向いてるもんも探せる。一石三鳥じゃん?」  これは、俺がバイト始めてから感じたこと。思ってたこと。  自分に合った仕事、ましてや好きな仕事を探すのって意外と大変なんだ。  ……って事を真剣に語ると、うっかり親子はめちゃめちゃ感動してくれた。 「な、なんて立派なの、迅くん……!」 「な、なんてカッコイイんだ、迅……ッッ!」  さすが似た者親子。絶妙にハモってる。  いやでも、これはマジ。  俺はたまたま服が好きで、シャルマンのデザインに惚れたからそこでバイト始めてみたけど、最初からうまく働けてたかっつーとそうでもねぇ。  表も裏もやるようになって、やっとショップ店員を名乗れるって事も最近身に沁みてる。  一匹狼の黒豹歴の長い俺なんかより、雷の方が社会に出たら成功しそうだ。バイト未経験ってのがネックなだけで。 「雷は能天気で明るいし、社交的だし、人懐っこいし、かなり人好きされる性格だから接客向いてると思うんで。卒業までにとりあえずバイト探してみることから始めたら?」 「そうね、そうよ……! 無理に就職先探して、合わなくて辞めちゃってニートにでもなったらそっちの方が困っちゃうわ! アルバイトから社員に昇格出来たりする時代だもの! 雷、光が見えてきたわね!」 「ああ! めちゃめちゃ明るい光が見えてる! 迅〜〜ッ、ありがとぉぉッッ♡」 「お、おぅ……」  感動に次ぐ感動を与えられたんなら結構なんだが、母親の前だぞ。いいのか。  ガバッと抱きついてきただけじゃ足りなかったのか、雷は俺の膝に乗って激しめのハグをしてきた。  条件反射で、つい俺も雷をひっしと抱く。  ジロジロ見られてるのは分かってたが、微笑ましい光景に目尻を下げてらっしゃる好意的な母親の前だから、まぁいいか。

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