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⑰仕返し ─迅─⑤
真っ直ぐ俺ンとこ来て膝に飛び乗ってくるとか、あざといにも程がある。
これが計算じゃねぇとこが憎いんだよな。
俺の胸元にデコを擦り擦りして「う〜!」と可愛く呻いてるとこを見ると、よっぽど苦痛な時間だったんだ。
お気楽自由人な雷が、かしこまって教師と対面するなんてのはおそらく拷問に近い。
頑張った恋人にはナデナデのご褒美だ。
「お疲れ、雷にゃん」
「迅〜〜! 疲れたよぉぉッ! 真面目な話すると肩と背中がガッチガチになんの! しかもあんなの覚えらんねぇから、紙に書いて行って正解だったぜ!」
へぇ、あれが役に立ったんなら俺も嬉しい。
一生懸命書き写してたもんな。
いわゆるカンペってやつなんだが、雷はたぶん手紙みたいに教師の前で堂々と取り出して読んだに違いない。
「フッ……先生なんか言ってた?」
「うん! 水上にしちゃあ、ちゃんと考えてんじゃんって褒められた! 迅、俺お前のおかげで褒められたぞッ♡」
「そーか、そーか。良かったな」
「うんッ♡」
はい、可愛い。抜群に可愛い。
金髪揺らして、猫目細めて、元気いっぱいに頷いちゃって。
ミニサイズな手のひらは俺のブレザーをギュッてしてんの。
こんなの〝可愛い〟以外にあるか? いや無えよ。
最近、雷の可愛さに磨きがかかってる。
言い出しっぺは俺だから微妙なとこだが、雷がバイトするとなると心配でたまんねぇや。
ちょっとメイクしただけの雷ギャルが、バイト二日目にして男から告られてたんだぞ。
素の雷もめちゃめちゃ可愛いってことは、あんまり知られたくねぇな。
「はぁ……雷にゃんは可愛いからなぁ。バイト始めんの心配だなー。他の男に言い寄られたらどうする? コロッといっちまったりしねぇ?」
「ヘヘーン! ンな心配はご無用だ! 俺は迅以外のヤローは芋に見えてっから! 芋!」
「そ? ちなみに俺はどう見えてんの?」
「イケメン♡ 俺の彼ピッピ!」
「だなぁ、雷にゃんの彼ピッピは俺しか居ねぇよなー」
「あったりめぇだろッ♡」
そうそう、それでいい。即答したからナデナデのご褒美に〝ギュッ〟も追加だ。
不意打ちでギュッを実行すると、雷が小さく喘いだんでもっと強く抱き締めた。雷の嬌声は俺のもんだ。
「あのぉ〜またボクチン蚊帳の外なんすけどぉ」
「あ、翼! やぽ!」
「やぽ〜」
……また翼の存在忘れてた。
恨めしいセリフに振り向いた雷が、軽い挨拶をしてまた俺に抱きついてくる。……最高か。
てか雷が来るまで確かにコイツと喋ってたのにな。
俺の可愛いチビ助が現れた途端、視界には雷しか捉えらんなくなる。
翼は相当にお冠だが。
「て事は雷にゃん、俺のこと芋に見えてんの?」
「あーいやぁ……翼はそんなことねぇよ? ちょい芋くらい」
「はぁ〜?」
「芋に翼の顔が描いてあるって感じ!」
「それキモくね!?」
「ぶふッ……!」
即座にツッコんだ翼と、「俺にはそう見えてんだもん」と言い放ってケラケラ笑う雷のやり取りが可笑しくて、思わず吹き出しちまった。
あまりにも俺との世界に入る雷も翼に悪りぃと思ったのか、膝の上で体の向きを変えて、足をぴょこぴょこ動かす。
「てかさ、てかさ、今日も俺がいねぇとこで二人はヤリチン語りしてたのか?」
「ヤリチン語り……」
「残念でしたー。そんな話はしてませーん。迅雷コンビがなかなか先に進まねぇんで、ダチとしてはヤキモキしてるよ〜って話してた」
「なんで翼がヤキモキすんだよ! 俺らの性事情に首突っ込むな!」
おぉ、雷が正論言ってる。
そうだよ、その通りだ。
俺と雷がいつ初セックスしようが、翼には関係無え。
この冬休みに勝負したいと密かに考えてる事を、まだ雷には悟られたくねぇんだ。
無駄にビビらせちまうのも、俺が〝焦ってる〟と思われるのもよくない。
雷の腹に手を回してこっそり俺に寄りかからせると、興味が勝ってる翼が余計な話を続行した。
「いやガチで。雷にゃん、お前が本気出さねぇといつまでたっても迅とおセッセ出来ねぇよ?」
「なにッッ!? 俺!?」
「そうそう〜。もう迅にイジくられてんだろ? でもそれだけじゃダメだ。自分でも解しとかねぇと。毎日だ、毎日」
「そ、そそそ、そ、そうなのかッ!? やっぱり!?」
「……ん? 雷にゃん、やっぱりって? 自分でイジろうとした事あんの?」
「あッ……!」
背後から雷の顔を覗き込んだ俺は、心の中で「翼、ナイス」と現金な事を思った。
うっかりさんはここでも健在で、ポロッと溢しちまった雷のツラはみるみる真っ赤に染まっていく。
それをまじまじと見ていた俺はというと、またも翼の存在がパッと消えて雷のことしか見えなくなった。
雷が、一人で、アナルに、指を、突っ込んだ……?
ナニソレ。……萌えるんですけど。
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