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⑰仕返し ─迅─④
🐾 🐾 🐾
さっき、二学期の終業式が終わった。
すっかり打ち解けちまった俺は、クラスの連中と「また来年な〜」と言い合い、いつもの場所へ。
「よぉよぉ、迅さん。雷にゃんとの営みはどっすか」
終業式だろうが何だろうが、いつもの一時間を過ごそうとしてた俺に、豹柄ラグが心底似合ってる翼からニヤニヤ面を向けられた。
ここに居ない雷は今、職員室で担任と話してる。
母親から毎日ガミガミ言われて、実は少し前からイラついてたらしい雷の悩みごとが、俺の助言のおかげで一つ減ったと喜んでいた。
それを担任に話に行ったんだ。
担任からも「進路どうすんだ」と急かされてたっぽいから、俺が〝今日行け〟って言った。
冬休みを思う存分楽しむために、片付けられるもんは片付けようってな。
紙とペンを持った〝うっかりさん〟のために、もう一回こないだと同じことを言ってやって、丸々俺の言葉を書き写した雷は一生懸命で可愛いかった。
「なんだよ、キモいツラして」
「いやヒドくね!? 俺も一応イケメンで通ってんだけど! お前が横に居るから霞むだけで!」
「……必死だな」
「話そらすなよ!」
そらすも何も、雷の〝セカンドヴァージン〟を狙ってるコイツが俺らの営みを知りたがること事態、気味が悪りぃんだよ。
それが興味だけなのか、ガチの情報収集なのか分かんねぇのがそこはかとなくキモい。
とりあえず、お前に付け入る隙は無えって事だけは伝えとこう。
「営みってもな……別に普通だ。言ったじゃん、今は拡張中なんだよ」
「それなぁ、迅。あれって毎日やんねぇと意味無えみたいなとこあるけど大丈夫そ?」
「は?」
翼のこの手の話はフルシカト決めようとした矢先、とんでもねぇ新情報が飛び込んできた。
足を組み替えようとした動作がピタッと止まる。
「それマジ?」
「マジ。女のヴァージンとはワケが違うんだ。お前が雷にゃんにベタ惚れ・メロメロ・ゲロ甘だっつーのは分かったから、アドバイスくらいさせろ」
「……悪い。最近お前のことシカトしまくってるよな、俺」
余計なアドバイスとやらは要らねぇが、翼の存在忘れて雷とイチャついてる日々は素直に詫びとこうと思った。
一日を通して翼と会話する数が激減してんのは、俺と雷がひたすらそれぞれの事しか見えてねぇからだ。
翼が俺らに興味津々なのも、コイツがお互いのダチでもあるからだってのはポジティブに考えすぎか?
「まぁ〜ッ! あの俺様迅様お殿様が謝るなんて! 明日は台風でもくるのかしらん?」
「……やっぱぶん殴っていいか」
「ダメ! ムリ! あん時殴られたやつ、あれしばらく痛かったんだからな! っつーかまだ痛えし!」
「お前が余計なこと言うからだろ。雷にゃんに不必要な情報入れないでくれ」
「不必要〜〜?」
「曲解して妙な風に受け取られて泣かれるのはもう……勘弁なんだ」
素直に詫びたらこれだ。謝るんじゃなかった。
コイツとの会話を盗み聞きしてた雷が、誤解だとはいえあんなに泣いてたんだ。晩メシも喉を通らないほど。
経験豊富なのをひけらかすのは結構だけど、雷を悲しませるような発言は鳩尾一発の刑だ。
「ありゃ。泣いちゃってたの、雷にゃん」
「そん時じゃねぇけど、クラスマッチ前に逃亡した時は泣いてた。俺に捨てられるだ何だ言って」
「へぇ〜……雷にゃんも相当お前にメロメロリンじゃん」
そりゃ分かってる。
雷が泣き止むなら、俺は少しもめんどくさがらず対処できる。何しろ俺もメロメロリンだから。
体にも心にも、俺の気持ちは教え込んだつもりだ。
だから雷が、順調に俺しか見えなくなってて何より。
この冬休みで本番セックスに期待を寄せてる身としては、営みどうこうより拡張の話を聞きてぇんだが。
「毎日やんねぇとダメなのか」
「拡張だろ? 俺の経験だけで言ってるけどな」
「でもお前ヴァージン抱かねぇじゃん」
「あッ……! そうでした!」
「何がしたかったんだよ」
テヘッじゃねぇよ。
よくそれで俺にアドバイスしようとしたな。
これだからパリピヤリチンは信用出来ねぇんだ。おまけにコイツはボンボン野郎。この先も何不自由なく、親のスネかじって生きてくタイプ。
毎日拡張しなきゃなんねぇというトンデモ情報、あとでネットで調べとこ。
コイツじゃアテになんねぇし……と翼を冷めた目で見てすぐ。
トテトテトテ……と上靴で廊下を走る音が聞こえた。
その音はどんどんここへ迫って来ている。
──さぁてどんな登場すんのかな、雷にゃん?
「ふにゃぁぁ……ッッ!!」
ガラガラッと勢いよく扉を開けて、短え両腕を広げて鳴いたのは、俺の可愛い可愛いチビ助だった。
そのチビ助は、俺を見つけるや膝に飛び乗ってくる。
「お疲れ」と頭を撫でてやると、ぎゅっと抱きついてきてフニャフニャ鳴いた。
……可愛いだろ。
この金髪ネコは俺のもんで、俺がここまで躾けたんだぜ。
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