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⑰仕返し ─迅─⑨

 レッスン後に素股するのはヤバイ。  ローションとカウパーが混ざって、ドロドロとサラサラの間くらいの謎の液体に仕上がったものが、やたらと滑りを良くしてたんで危うく挿れちまうとこだった。  グッと腰入れれば挿入出来そうな感覚はあったが、察知した雷から「ダメッ♡」て可愛く拒否られた事でハッとした。  良かった。あのまま突っ込んでたら流血沙汰になってたぜ。 「──なぁなぁ、迅は生まれてこのかたずーっとリア充じゃん?」  ヌきっこ大会で甘んじた後、俺たちはコンビニで買ったメシを食って、もっさん達と戯れていた。  その時ふと雷から、何気ない世間話を持ちかけられる。  俺は特に何も考えねぇまま、もっさんのモフ毛を専用コームでブラッシングした。 「なんだ、いきなり」 「クリスマスってどう過ごしてた? てかカップル達はどう過ごしてんの?」 「……クリスマス?」  あぁ、そうか。明日はクリスマス・イブ、明後日はクリスマスだもんな。  うちの学校は早々に冬休みに入るから、中学ン時と感覚が違う。それに、バイト先のモールでは今月頭からずーっとクリスマス一色にデコられてるし、特別感が無くてうっかりしてた。  毎年どう過ごしてたか、なんて聞いてどうすんだろ。  俺は雷の過ごし方の方が気になるんだけど。童貞処女だし、過保護な束バッキー野郎も居たら心配するような事は無さそうだが。 「……雷にゃんは?」 「え〜〜俺ぇ? 絶対絶対、笑うなよ? 俺はなぁ、毎年母さんとケーキ作ってた」 「ぶふっ……!?」  ケーキ!? 雷が!? はぁっ!?  猫を膝に乗っけて呑気にお茶でも飲んでたところに、意外でしかない暴露をされて思わず吹き出してむせた。  だってこの雷が? ……ケーキ?  うわ……エロいエプロン姿の雷が、泡立て器片手にキッチンをちょこまか動いてるとこ想像しちまった……。  可愛い。……勃った。 「おいおい迅さん、汚いなぁ。いくら俺が迅にメロキュンでも、さすがに吹き出したお茶はバッチィぜ」 「いやごめん。雷にゃんがケーキ作ってるとこ想像したんだよ。そしたら……萌えた」 「別に燃えてねぇよ。かき混ぜたり〜塗ったり〜スポンジケーキ焼き焼きしたり〜イチゴ切ってトッピングしたり〜? 俺料理は出来ねぇけどケーキだけは作れるんだよなぁ」 「はぁっ? なんだそのとんでもねぇ萌えギャップは」 「だーかーらぁ、燃えてねぇってば。作れるっつっても生クリームのやつだけな? 普通のやつだぞ、普通のやつ」 「いやいや……」  充分すげぇよ。てかいつものドタバタキャラとのギャップがあり過ぎて、頭がクラクラした。  俺はそんなにケーキは好きじゃねぇ。  でも雷が作ってくれたものならワンホールいける気がする。出来れば裸エプロンで猫耳カチューシャ希望。  うっ……可愛い。チン○ビクンッてなった。  ダメだ、いくら雷でもさっきの今じゃ絶対にその気になってくんねぇよ。  子猫達によじ登られて嬉しそうにしてる無邪気なネコに、性欲ばっかぶつけてられっか。  楽しみは深夜に取っとこう。  とにかく今は世間話だ、世間話。 「ケーキ作れるなんて、知らなかったな」 「誰にも言ったことねぇもん。だーって、恥ずいじゃん。クリスマスは母さんとケーキ作んのが恒例なんだぜ〜とかさ」 「分からなくもないけどな……」 「迅はどんなクリスマス過ごしてた? どうせ毎年リア充爆発してたんだろー?」 「………………」  両肩それぞれに一匹ずつ、もう一匹を頭の上に乗せた猫まみれの雷から恨めしそうな視線を向けられたが、さてどう答えるべきか。  リア充は爆発していた。  イブとクリスマス当日の二日間で六人の女を相手にした年もある。  女はクリスマスって行事に敏感で、やたらと街に出たがんだよな。〝私リア充です〟アピールのためなのか、「もっと彼氏感出して」と無茶を言われた時はキレそうになったっけ。  雷とならどこにでも行きたいし、何なら俺の方が、手繋いだり肩組んだり頭ヨシヨシしたりキスしたり色々しまくりたいと思ってる。  そんな風に思ったのは雷だけだからな。って言ったところで、コイツはこんな質問しときながらいざ俺がバカ正直に答えると凹むんだろ。    そんで心臓辺り押さえて下唇出すんだ。  嫉妬されるのは悪くねぇが、あの可哀想なツラはあんま見たくねぇ。 「……言ったとこでチクチクすんだろ」 「しねぇよ! だって過去じゃん!」 「元祖セフレ達にヤキモチ焼きまくってたヤツがよく言うよ」 「むぅぅーー!! ……ンッ♡」  ほら、下唇出すんじゃん。  身を乗り出してその唇を舐めると、雷のツラがキス待ちのそれに変わったんで遠慮なく頂いた。  俺は雷限定でキス魔だ。甘やかしもする。  だからそんな下唇出して凹まなくていい。 「雷にゃんにとっては、俺はよろしくねぇクリスマスを過ごしてた。でも今年からは雷にゃんが居るし、最高だよ」 「え……ッ♡」 「あ、そういや俺、クリスマスはラストまでバイト入れられてんだよな。雷にゃんさえ良けりゃ、泊まりたがってたラブホ行くか?」 「ら、らぶッ……! らぶほてるってやつっすか!?」 「そう。社会勉強に行っとくのもアリだろ?」 「うッ……うん、アリかナシかだったらアリかも……! 行ってみたかったし……! 実を言うと俺、入口までは行ったことあんだけど中まで入ったことはねぇ……わぅッ!?」  聞き捨てならねぇ台詞に、「うんうん、そうだろ」と機嫌良く聞いてた俺の怒りメーターが、瞬時に振り切った。  雷によじ登った子猫達を一匹ずつ床におろしてやり、カーペットの上に押し倒す。  ラブホの入口まで行った事がある、……?  聞いた事ねぇぞ、そんな話。 「は? 何? いつ? 誰と? 初耳なんだけど?」

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