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第1話

 太陽の光を浴びてキラキラと美しく輝く銀の髪を、遠くからジッと見つめる幼子の瞳があった。嬉しそうにじゃれつく兄に向けられるその柔らかな微笑みに、どこか胸が苦しくなる。  そのけぶるような菫の瞳に自分を映してほしくて、その声で名前を呼んでもらいたくて、幼子は突き動かされるように駆け出した。  冷たい風が頬を撫でる。その心地よさに目元を緩ませながら、シェリダンは流れるような手つきで上奏状を取った。  王妃の仕事は多岐にわたる。謁見や後宮の管理、宴の采配など、細々としたものまで数えたらキリがないほどで、こうして上奏状を読み必要あらば動くのもまた王妃の役目だった。常人からみれば忙しいであろうその仕事量は、しかし元々宰相補佐であったシェリダンには少ないと感じるほどで、慣れないことに悩みつつも手際よくひとつひとつを片付けていくため空く時間も多い。その時間は愛くるしいビーグル犬のレイルと中庭に散歩へ行ったり、王妃の私室で書物を読んだりと様々なことをして過ごすのだが、シェリダンにつけられているエレーヌを筆頭とした女官たちは午睡をとるようにと強く勧めていた。  大国オルシアの若く凛々しい国王アルフレッドは、文武両道で政治の手腕も見事な非の打ち所がない、誰もが見惚れる雄々しい美男子である。そんなアルフレッドの横に並び立つシェリダンは銀の髪にけぶるような菫の瞳を持つ中世的な美しさを持つ青年で、水晶の儀によって男の身でありながら王妃となったが、物腰の柔らかさと優しさ、その気弱とも思える性格からは想像もできないほどの強さを持つ彼を多くの国民が慕っていた。そして国民すべてから捧げられる愛よりもなお強く深く、いっそ執念深いというほど一途にアルフレッドに愛されているのだが、そのことをあまり理解していないのはシェリダン本人だけだ。  エレーヌ曰く絶倫であるアルフレッドの欲を一身に受け止めるシェリダンであるが、彼は元々宰相補佐――文官であり、体力はさほどない。幼い頃からの境遇ゆえにあまり食事を摂らず女も羨むほどの華奢な身体を持つシェリダンが毎晩毎晩アルフレッドと睦んでいるとあっては、とにかくシェリダンを休ませ、精のつく食事を摂らせることが我が使命とばかりに女官たちが意気込むのも仕方がないだろう。

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