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第2話

「妃殿下、紅茶をご用意いたしました。少しご休憩を」  朝の謁見を終えてからずっと上奏状を読んでいたシェリダンはエレーヌの声に顔を上げた。ソファーの前にあるテーブルにはシェリダンの好きな甘い紅茶と、クッキーやフィナンシェといった焼き菓子が美しく並べられている。シェリダンに仕える女官は多くいるが、今はシェリダンに気を使ってかエレーヌとミーシャの二人だけだ。 「ありがとうございます」  そうほほ笑んで、シェリダンは手にしていた上奏状をパタンと閉じた。幾つもの上奏状が乗せられている盆に手にしていた上奏状も置いて立ち上がる。エレーヌに寄り添われながらソファーに座れば、ミーシャがティーカップを渡してきた。アルフレッドがシェリダンのために用意した白薔薇のティーカップには甘いミルクティーが淹れられ、その香りにシェリダンの肩からも力が抜けていく。 「本日は商人が参る日でございますから、その後にレイルのお散歩に行かれますか? アンナが代わりに行くことも可能でございますが、いかがいたしましょう?」  アンナはシェリダンに仕えている女官の一人で、よくレイルの世話をしてくれるためレイルも女官の中では一番アンナに懐いている。シェリダンが公務などでどうしても時間が取れない時はアンナがレイルを散歩に連れて行ってくれていた。しかしシェリダンは少し考えてからフルフルと首を横に振る。 「おそらくそう時間はかからないでしょうから、私が連れて行きます。良い息抜きにもなりますから」  シェリダンはアルフレッドからレイルの散歩と必要な時以外は私室か寝室にいるよう命じられている。それはどう聞いてもアルフレッドの嫉妬以外の何物でもないのだが、シェリダンはさして苦痛でもなくそれだけ思われていることにほんの僅か胸を温かくさせながら、その命令に従っていた。  私室のバルコニーから太陽の光を浴びることができるとはいえ、やはり外の空気を吸うことは必要だろうと、できるだけシェリダンを休ませようとするエレーヌたちもさして反対することなく了承する。 「側妃方も来られますが、妃殿下も何かお求めくださいね。商人たちも今日を楽しみに来ているでしょうから」  王族に自らの商品を買ってもらえれば商人たちにとっては大変な栄誉となる。その後の商売にも箔がつくだろう。そして経済を回すためにもアルフレッドやシェリダンに多くの物を買ってもらいたいと高官たちは口を揃えて言う。大国オルシアであっても金を貯め込むばかりでは経済は回らない。国庫が貧窮しているのならばともかく、潤っている今は多少散財してもらう方が良いのだ。特にシェリダンは茶葉や茶菓子を買うくらいで装飾品や雑貨などは興味がなく毎月与えられる禄は溜まる一方である。その茶葉や茶菓子も無ければないで構わないという性格であるため、見かねたアルフレッドが自らシェリダンの禄を半分管理し、そこからエレーヌに茶菓子などを買うよう命じたほどだ。特に問題のないシェリダンが高官たちから頭を抱えられる数少ない原因の一つである。

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