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第3話

「そうですね、私は特に欲しい物はありませんから、レイルと王子や王女に何か買いましょうか。後でアルの元へも行くと聞いたので、アルが欲しい物はご自分で買われるでしょうし……」  紅茶に口をつけながらシェリダンはどんなものであればレイルや王子たちは喜ぶだろうか、と考えを巡らせる。そんなシェリダンの様子にエレーヌとミーシャは乾いた笑みを見せた。 「それもよろしいですが、妃殿下ご自身に何か……」  買わないのか? と問いかけるがシェリダンはキョトンとするばかりだ。本当に、下手をすれば聖職者よりも物欲のない王妃である。 「まぁ、陛下が何かお求めになるでしょう……」 「ええ、エレーヌ様。おそらく、大半がそうなるかと」  小声でエレーヌとミーシャが何事かを話しているが、シェリダンは首を傾げるだけで深くは聞こうとはしなかった。遊び飽きたのか足元にじゃれついてきたレイルを抱き上げ、膝に甘えてくるその背中を撫でる。 「欲しい物があれば個人的に商人から買い付けてはいるでしょうが、側妃方も今日は楽しみにしているでしょう。やはりこういったことは女性の方がお喜びになりますから、私の所よりも彼女たちの方へより多くの品物を見せるようにお願いしておいてください」  本当はシェリダンが直接言ってもいいのだが、そうすると商人たちは自分たちが何か王妃の不興を買ってしまったのかと目に見えて青ざめてしまうため、エレーヌたちに事前にシェリダンの意図を伝えてもらった方が良いのだ。シェリダンの言葉にエレーヌたちは頷くが、そうはいっても商人たちはシェリダンの前に多くの品を並べるのであろうことを予測して、できる限りシェリダンが好みそうなティーカップやレイルのオモチャ、王子たちが好みそうな物を並べるよう商人たちに伝えなければと、エレーヌは隣室にいるクレアに伝言を任せ、シェリダンの元へ戻った。  そんな彼女たちの考えなど知ることなく、シェリダンはサクッと香ばしいクッキーを口に含む。口の中でホロホロと崩れたクッキーは甘く、とても美味しい。 「そちらは料理長が作ったものなのですよ。いかがでございますか?」  シェリダンの食の細さは料理長にとっても悩みの種で、最近はいかにシェリダンに食べさせるかと闘志を燃やし試行錯誤を繰り返して、ついには菓子にまで手を出し始めたらしい。 「料理長が? 彼は菓子も作れたのですね。とても美味しかったと、どうぞお伝えください」 「はい。料理長もさぞ喜びましょう」  これでますます料理長は菓子を研究し作るのだろうと未来を予想しつつ、エレーヌの視線が窓の外に向けられた。もうすぐ時間だ。シェリダンもそれに気づいたようで、ティーカップをテーブルの上に置き、レイルの背を撫でて立ち上がった。

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