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第14話
目の前にいる幼子は、かつてのシェリダンによく似ている。愛してほしくて、自分を見てほしくて、泣きそうになりながら一生懸命に腕を伸ばし、しがみついている。
あの時、シェリダンの手は振り払われた。だが、今は――。
「いいえ、大好きですよ。ルーナ王女、いつでも来て良いのですよ。その時にいっぱい、お話してくださいね」
柔らかく、ほほ笑む。ルーナはそれを見てパァッと弾けるような笑みを見せた。
「ほんとう? ルーナのことすき? ちゃんとおはなししてくれる?」
確かめるように何度も何度も繰り返すルーナに、本当だとシェリダンは繰り返した。
「ありがとうシーしゃま!」
もう部屋に戻る時間だと女官に促されて踵を返したルーナは、しかし何度も何度もシェリダンを振り返ってニコニコと手を振った。もう十分だろうと、ラーナはユアンと手を繋ぎシェリダンに礼をする。シェリダンもレイルを抱き上げて私室へと足を進めた。
――シェリダンは、嘘をついた。あんなにキラキラした瞳を前に、本心は明かせなかった。だがあの笑顔を見たら、嘘をついて良かったと言い訳のように思う。
日に日にアンジェリカに似てゆくルーナに、過去を思い出さないわけではない。痛みを覚えないわけでは、ない。
心の底から本心で大好きだとは言えないだろう。城の者たちが気を使ってくれたのもあるが、シェリダン自身ルーナに会うことを無意識のうちに避けていた。過去を思い出したくないと逃げて、逃げて。
だがルーナはそれを敏感に感じ取ったようだ。痛みを知っていたのに、同じ痛みをルーナに与えてしまった。
(可哀想なことをして、しまいました、ね……)
耳にウワンウワンと木霊す子供の声。
〝お母さま〟
〝お父さま〟
〝あにうえ〟
必死に呼ぶその声に聞こえないフリをして、シェリダンは歩いた。もう過去のことだ。繰り返されることは、二度とない。何度もそう、自分に言い聞かせた。
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