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第13話
ルーナは子供だ。何も知らない。この幼子に罪はないのだ。だというのに、必死で何かを訴えようとしている彼女をそのまま追い払うのは、可哀想に思えた。かつての己の姿に、重なったというのもあるだろう。シェリダンは胸の内で深呼吸をしてから、リーン大将とナグム少将にルーナを通すよう言った。
「王女、どうしましたか?」
おいで、と軽く手を伸ばせば、おずおずとルーナが近づき、そして必死になってシェリダンの袖を強く掴んだ。
「王女?」
呼びかけても、ルーナは俯いたまま黙ってシェリダンの袖を握り続ける。ぎこちなくくすんだ金髪を撫でた。
くすんだ金髪に、碧玉の瞳。
(似て、きましたね……)
彼女の母親――アンジェリカに。
「ルーナ、どうしたの?」
様子のおかしい妹にユアンが首を傾げる。子供は、あの騒動の中身を知らない。ルーナの母が何の罪を犯し、シェリダンにどう振舞ったのか、何も知らない。知らないはずなのだが、もしかしたらルーナは何かを感じ取っていたのだろうか。
「……ルーナのこと、きらい……?」
ともすれば空気の流れにさえかき消されてしまいそうなか細い声。震えるその言葉に、シェリダンはルーナの瞳を見た。
「ルーナのこと、きらい? だから、おはなししてくれないの? だから、ルーナにわらって、くれないの? おなまえ、よんでくれないの? シーしゃまはルーナのこと、きらい?」
――お母さまは僕のこと……。
ハッとシェリダンは目を見開いた。耳の奥に木霊したのは、ルーナの声ではなく、かつての己の言葉。
かつてのシェリダンも、母を求めた。家族の愛を求めた。だが、笑顔を向けられたことも愛されたことも、最後までなかった。シェリダンが求められたのは王妃として祝ってほしいと兄に言われた時だけ。その時でさえ、彼らが欲したのは〝王妃〟であり、〝シェリダン〟ではなかった。
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