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第12話
「わざわざそのために来てくれたのですね。ありがとうございます。気に入っていただけるとよいのですが」
そんなことを言えばユアンは興奮しきって与えられたオモチャがどれほど嬉しかったかを語る。どこで息継ぎをしているのだろうと不思議になるくらい勢いよく話すユアンに圧倒されながらも、シェリダンは優しく微笑んで矢継ぎ早な言葉に耳を傾けていた。
「それでね、それでね!」
大好きなシェリダンを前にユアンの興奮は治まらない。そろそろ我が子を止めようかとラーナが口を開きかけた時、遠くで何か叫ぶような声と小さな足音が皆の耳に聞こえた。
何事かと皆が振り返った時、リーン大将とナグム少将が素早くシェリダンの背後に立ち剣に手をかけた。しかし視線の先に相手を捕らえ、剣から手を放す。それでも二人はその場から動こうとはしなかった。
リュシアン隊長の信頼も厚い彼らが警戒態勢を解いたということは害のない相手であろうに、いったいどうしたというのだろうか。そっと二人の合間から視線を向けた時、そこに俯いて震える小さな姿が見えた。この子は――。
「ルーナ!」
ユアンの元気な声がシェリダンに確信を抱かせる。そう、この城にいるたった一人の王女――シェリダンの義妹であるアンジェリカの娘、ルーナ王女だ。
アンジェリカは頂点に上り詰めシェリダンを追い落とすために、ユアンや第二王子フィリップの暗殺を企て今は牢にいる。アルフレッドの恩情で未だ王女の立場にいるルーナも、本当はアルフレッドの子ではない。王妃になりたいアンジェリカが策を練り、妊娠してから後宮に上がって、アルフレッドの子としてルーナを産んだのだ。
シェリダンにとってアンジェリカは、良い思い出のない相手だ。それをシェリダンの側に仕える者たちは当然知っている。だからこそ接触させないよう、リーン大将やナグム少将がその場を動かないのだ。
「王女! こちらに来てはならないと何度言えばッ」
アンジェリカの代わりにルーナの世話をしている女官が語調を荒げ、無理やりルーナを連れて行こうとする。ルーナは幼子であるにも関わらず涙一つ零さず喚きもしないが、それでも何かを訴えるようにその場から動かず、濡れた瞳で縋るようにリーン大将やナグム少将を見ている。
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