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第11話

「まぁ……、妃殿下は王妃殿下であらせられるのですから、何もお気になさることはないのですよ?」  有事の際にはアルフレッドにさえも臆することなく意見し、架醍の兵が城に押し寄せてきた時には自ら短刀を兵士に突きつけるなど凛として勇ましい姿を見せたというのに、常のシェリダンはその姿が嘘であるかのように気弱で、贅沢をすることに慣れない。  別人のようであるが紛れもなくどちらも同じ、エレーヌが心を尽くして仕えるべき主だ。彼が気弱で悩む心を持つからこそ、できることもある。 「ありがとうございます。はやく慣れなければ、いけませんね……」  そうでなければ身が持たない。シェリダンが自嘲するように口元だけで笑った時、元気な足音が耳に聞こえた。これは――。 「し~しゃま~!」  タタタタタタタタッと勢いよく小さな足で駆けてくるのは第一王子のユアンだ。シェリダンは立ち上がって地にしゃがみ、体当たりするかのように勢いよく飛び込んできたユアンを抱きとめた。ユアンの後ろから母であるラーナや女官たちが疲れた様子で走ってくる。 「王子! 妃殿下に失礼ですよ!」  ラーナが強い口調で叱りつければ、ニコニコとご機嫌だったユアンは俯いて唇を尖らせる。少し身体は大きくなったが、こんなところはまだまだ幼子のようだ。 「……ごめんなさい」  ボソッと呟かれたそれにシェリダンは笑みを浮かべて、汗をかいている額を手巾で拭いた。 「構いませんよ。王子もお散歩ですか?」  子供特有のフニフニした頬を撫でながら問えば、ユアンはブンブンと勢いよく首を横に振った。先ほどの悄然とした態度はどこへやら、興奮してその小さな手でシェリダンの袖を掴んだ。 「あのね、あのね! さっきはーうえからオモチャ貰ったのです! ちーうえとシーしゃまからだって! ありがとうございます!」  シェリダンが庭に出ていると聞いて急いで来たのだというユアンに、シェリダンは思わず零れるような笑みを見せてその髪を撫でた。

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