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コネコの気持ち 第1話

 久しぶりに何もないオフの日が出来たので、優志は部屋の掃除や洗濯をして午後からは日用品の買い物に出る事にした。  そろそろ洗剤やトイレットペーパーが切れるのだ、他にも消耗品を幾つか買い揃えてついでに食材も買っておこう。  荷物が多そうだからこういう時に車があると便利だよな、と思いながら駅前のショッピングモールへ向かった。 8月の昼下がり、日影を選びながら歩いても涼しいとは思えない。午前中に買い物にくればよかったと後悔しても遅い。 額に浮いた汗を拭いながら一息つく。 「はぁ……」 買い物前に何か冷たい物でも飲もうか、そんな風に考えながらも足だけは動かす。  忙しくて買い物にゆっくり出られなかったし今日は色々と見て回ろう。新しいスニーカーも欲しいから下見も兼ねて靴屋もチェックしよう。 今日はオフだが、今は来月から始まる舞台の稽古期間だ。稽古期間中でも雑誌の取材やWeb番組への出演もこなし、舞台が終わってからも仕事は途切れずに入っている。 今までと比べれば順調だ。私生活はえとえば、樹と恋人になれたというものの特に大きな変化はない。 お互い仕事が不規則なので、会えない日が続く事もある。寂しさから不安になる事もあるけど、電話をすれば欲しかった言葉をくれ、早く会いたいと同じ気持ちを返してくれる。幸せだと思える毎日だ。  ふらふらとショップを回っているとスマートフォンに通知が届いた。 「あ、太一君だ……」  舞台が終わってからもアクターズメンバーとは付き合いが続いている、仕事を通し徐々に広がっていく人間関係が楽しい。人見知りではあるが、友達が欲しくないわけではないので、アクターズの仲間との絆は大切にしたいと思っていた。  LINEの文には写真が添付されていた。それは太一が飼っているという子猫の写真だ。 「かわいいなぁ……」  思わず頬が緩む。薄茶色の毛足の長い子猫の眠っている写真が数枚、それは最近飼い始めたという可愛い愛猫を自慢したいがために太一が送ってくるのだ。  だが、写真の中の子猫は太一でなくてもその可愛さにやられるのが分かる。優志は写真を眺めてから、子猫を賞賛する為に返信した。  わざわざ返信する律儀さに太一も気を良くしているので、写真を撮るたびに送られてくる。  同じ事務所の永治などは「うざい」と言って一刀しているが、送ってくるなと言わない辺り実は写真を楽しみにしているのではないだろうかと、ちょっと思っていた。  だってそれ程に可愛いのだ。  返信した後はまた買い物をし、両手に紙袋とビニール袋を提げ部屋に戻った。帰って来る頃には外はどんよりと曇り日差しはなくなっていたのだが、湿度は高かったので早くシャワーを浴びてさっぱりしたかった。  シャワーの前に買ってきた缶ビールやその他の食材を冷蔵庫にしまう。風呂上りのビール最高、と親父臭い事を考えながら鼻歌交じりに風呂場へ直行した。  風呂から出ると缶ビールを2本開け、録画していたドラマを見たりしてオフを過ごした。  寝る前にまた太一から連絡が来た。それはアクターズの出演メンバーの誕生日会を企画しているので優志も来ないか、という誘いのLINEだった。 「それでね、この間太一君の部屋でサプライズパーティーをやったんだー、でね、太一君とこの子猫、可愛いでしょ?」 「……前にも見せて貰ったあの猫か?」 「うん、そう、ほらね、寝てるのとかヤバイよね、すっごく可愛い」  樹の傍らで楽しそうにスマートフォンを見せる優志は無邪気な笑顔を見せた。スマホを操作しながら太一の部屋で撮った子猫やみんなで写っている写真を樹に見せる。 「また今度泊まりに行くんだー、すっごい懐っこい猫なんだよー」 「……泊まりに行くのか?」 「うん、太一君家近いんだ、たまに行くよ、今度は猫用のおやつ持っていくんだ、オレの手から食べてくれるんだよ~すっごく可愛いんだ、あ、また写真撮って来るね」 「……あぁ」  満面の笑みの優志とは反対に、樹は苦虫を噛み潰したような難しい顔をしている。スマホを仕舞い、漸くその表情に優志は気付いた。 「……樹さん……」 「ん……?」 「猫、嫌いだった??」 「……別に……」 「ホント?何か……怖い顔してるから……」  優志には樹が何を考えているか分からないらしい。男の部屋に泊まりに行くと喜々と報告してくる位だ、疚しい所などないのだろう。  だが、樹にしてみれば面白くない。恋人が男の部屋に泊まりに行くなんて、しかもたまに行くとも言っている、本当は行くなと言いたい程なのだ。 「……実家はさ……猫飼っていなかったっていうかペットいなかったし、今だって飼ってないけど、オレ小さい頃からペット飼いたいなって思ってて……」 「そうか……」 「うん、太一君、いつでも遊び来ていいって言ってくれるから、甘えちゃって……」  恋人になってからというもの、ソファーで座る時の距離も以前と比べ近くなっていた。以前は酔った時位しか密着してこなかった優志だが、今は自然と樹へ体を預けるようにして座っていた。 「……そんなに頻繁に行ってるのか?」 「そんな事はないよ、でも週一位かな?」 「そんなにか?!」 「う……図々しいかなぁ……」 「いや、そうじゃなくてな……」  しょんぼりとしている優志に掛ける言葉が見つからず、樹は黙り込んだ。  優志はそれならばと見当外れの事を言い出した。 「じゃあ、二週間に一回位にすればいいかな?」 「……そんなにその男の部屋に行きたいのか?」  抑えなければと思うのに、つい不機嫌そうな低音になってしまう。その声で漸く優志も気が付いたようだ。 「……樹さん、焼もちやいてるの?」 「………」  気付かないのもどうかと思うが、気付かれるのもそれはそれで気まずい。バツの悪そうな顔で黙り込むと、優志はぎゅっと抱きついてきた。 「樹さん、心配性だなー」 「……」  ふふっと笑う顔は愛しさで輝いている。それが杞憂だと分かっていても、やはり心配なのだ。それに単純に気に入らないのだ。 「オレは樹さんしか興味ないのに……」  少しだけ拗ねたようないい方に、樹はごめん、と小さく謝った。  抱きしめ返すと優志はキスを強請るように、顔を上げ真っ直ぐに樹を見つめた。キスをしながら、それでも、と樹は思う。  信用していない訳ではないが、それでもやはり優志が他の男の部屋に行くのは阻止したい。  それならば、と樹は考えていた。

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