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第6話
あんな恥ずかしい遣り取りをした後だからだろうか、体の中がいつも以上に熱い。
樹の律動に合わせ、腰が揺れる。逞しいもので中を擦られ、限界を迎えるのは何度目だろうか。明日はオフと言えど稽古中なのに、そんな考えも頭の中にはあったのに、今はどこかへ霧散していた。
だってそれ程までに気持ち良くて。樹もきっと同じだろう、気遣いつつも優志の体を離そうとはしなかった。
「あぁ……ん、ん……いつ、きさん……」
樹の背中に伸ばした腕に力を込め抱き付く。体中どこかしこも樹と触れていたくて、隙間を埋めるような抱擁と、キスを繰り返す。
「……ふぅ……んん……」
二人共息が上がっている。いつも以上に盛り上がり過ぎだ、これで終わりと言い合わせた訳ではなかったが、きっとこれで今日はおしまい。
「樹さん……」
優志、唇が動いて名前を呼ばれる。名前に込められた愛情が嬉しくて、抱き付きながら心の中で何度も愛しい人の名前を呼んで大好きと叫ぶ。
樹としか味わう事の出来ない至極。最奥を突かれ、優志が果てる。
「んん……!」
そして、体の中で脈動する樹の熱も、薄い膜越しに絶頂を迎えた。はぁはぁと整わない息の中、肢体をシーツに投げ出す。樹が中から抜け出て、顔を覗き込まれた。
「……優志」
大丈夫か?と心配するような瞳に、笑い掛ければ頬を優しく撫でられた。
「……ふぅ……」
長く息を吐き出し、呼吸を整える。まだ心臓はバクバクと音を立てているし、熱の余韻はまだ直ぐに冷めそうもない。
「……きもちよかった……」
もっと気の利いた事が言えればいいのに。肩の力が抜けた瞬間出て来たのは、そんな一言。
でも、樹は同意だとばかりに笑って頷いてくれた。
「優志……」
もう一度頬、顎から首に、肩を撫でられ肌の上から熱が去る。
優志も起き上がり、ティッシュで下半身や腹に付いた精液を拭く。
「シャワー浴びるか?」
「……んー……朝でいいかな……」
倦怠感は心地よいが、そろそろ眠気も出て来そうだ。朝ゆっくり風呂に浸かる事にしよう。
「眠そうだ」
「……ん」
素直に頷く。床に落ちていた下着とティーシャツを樹が手渡してくれたので、二人して着替える。
新しく替えたシーツはひんやりとして肌に心地よい、うっとりとして目を閉じれば樹の手が優志の頭を撫でた。
「……樹さん頭撫でるのすき?」
「……どうかな、気にしたことはないなぁ……」
向き合ってぽんぽと子供をあやすように叩いたり、撫でたりする訳ではない。情事の最中にはよく撫でられている気がする。
「嫌か?」
「んーん、きもちいい……」
「……そうか」
ふわりと微笑まれ、そのまままた優しい手付きで撫でられる。まるで猫になったみたいだ。
単に猫を飼い始めた癖なのでは?と思ったが、言わない事にする。
樹が飼っている猫二匹は、きっとリビングで丸くなっている事だろう。
優志が泊まる日はリビング、通常は樹のベッドで寝ているようだ。今日のリビングは猫達の為にエアコンは稼働中だ。
「……樹さん」
「ん?」
「……全部好きにしてって言えないかもだけど……でも、その……オレ、樹さんの事嫌いになったりしないよ……」
「……そうか?」
「……うん」
「……ありがとうな」
慈しむような瞳で見つめられくすぐったい。
嫌いになる事なんてないよ。樹さんは?
そんな事は聞けない。樹もそれは同じだろう。
今がそうでもこの先の事なんて分からない、だから不安になるのに。
もしかしたら、離婚経験のある樹は優志の言葉を100%信じてはないかもしれない。
それは優志が樹の事を信じていても、不安を捨てきれないのと同じだろう。愛されていると、不安など杞憂なのだと思った。
だけど、一人になった時また思い出すだろう、その心配を、不安を。それを繰り返して、いつかは無くなる日がくるのかもしれない。分からないけれど。
「……やっぱり顔が見える方がいいね」
「……そうだな」
きっと分からないから、愛を乞い、確かめ合うのだろう。それならば分からなくてもいいや。この不安も引っ括めて樹への愛情なのだから。
「おやすみ、樹さん」
優志の言葉に頷き、樹は今日一番の優しい笑顔で微笑んでだ。
完
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