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第5話

 自分より大人だから、きっと樹は優志が離れる事を不安に思う事なんてないと思っていた。まだ、それは思ってるけれど。  それでも、自分が樹に対して感じているような不安を同じように抱えているのだろうか。嫉妬してくれる事があるのは知っているけれど。  嫌われたらどうしよう。なんて、自分だけが思っていると思っていた。 「いつきさん……」  いつだって余裕があるのだと思っていた。  優しくて、時々意地悪で。 「……んんっ……はぁ……」  繋がりながら、優志はいつもよりどこか冷静にそんな事を思っていた。 真上に見える樹はじっと優志を見つめている。不意に目を細め、愛しそうに優志の頬を撫でる。大きな手は熱くて優しい。  あぁ、愛されている。そんな風に感じる視線に、じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。 「……優志……?」  急に樹の手を払い、自らの手で顔を隠してしまった優志に戸惑いの声が降る。  樹の思いを知らない訳ではなかった、愛されていると感じていたし不安に思うのは自分の妄想なのだと半ばわかっていた。  でも、その妄想はいつだって優志の心にあって消える事はなかった。 だけど今この瞬間、それが杞憂なのだと気付く。 「……樹さんて……オレの事、好きだよね……」 「は?どうした?好きだよ?知らなかったのか?」 「……し、しってた、けど……」 「……どうした?」 「はずかしい」 「は?」  最中にする話ではないのは分かっているが、確かめずにはいられない。 「いつ……」 「愛してるよ」 「……!」  うわー!!!と叫んで樹の前から逃げ出したいのに、繋がっていてはそうもいかない。 樹は動きを止めたまま、優志の動向を伺っている。それは気配で分かった、何を言えばいいのか分からない、ただただ恥ずかしい。 「優志」  振り払われた手を今度は優志の額に乗せる。汗で貼り付いた前髪を払うような仕草で、優しく頭を撫でる。 その手にじわじわと体温が上がる。自分の手の平の下の頬が熱い、そして口許は笑みが崩せない。だって嬉しくて。 自分が拒まないから、好き勝手されていると思っていたのに。それは、多少はあるかもしれないけど。 樹も同じように、自分との距離の取り方を考えていてくれた。同じように不安に感じながら、そんな風には見えないのに。見えないように、なのか。  これか、樹がたまに自分に対して言う「可愛い」は。堪らなく樹が可愛いと思えた。でも、そう思われているのは何だかとても恥ずかしくて、顔を真っ直ぐに見られない。 「……顔、見たいよ……オレに言ったのはお前だよ」 指の隙間から見える樹の顔は真剣で、その瞳は真摯に真っ直ぐ優志を見つめてくる。  意地悪な笑みを浮かべていると思っていたのに、何でそんな顔しているんだよ。 「……樹さん」 「……優志は?」 「……え?」 「オレにだけ言わせるのか?」 今度こそ雄の顔で笑っている。でも、それは優志の心を確かめたからだろう。聞かなくたって分かっているのに、強引に引き出そうとする。 優志がそうされるのが好きだから、というのもあるけれど元々樹の性分なのだろう。強欲なのだ。でも、強引な所があってこそ、優志の柔らかくて弱い心を引っ張ってくれる。  嫌われたらどうしよう、なんて思っている男には見えない。そんな不安を抱えているのかと、問いたい。  だけど、それよりも今は。 「……だいすき……」 「うん……嬉しいよ」  本当に嬉しそうに笑うから。  深く深いキスをして、抱きしめ合った。 「続き、して……」 「あぁ……」  頬が熱いのは行為のせいだけじゃない。でも、こんな行為の最中にしては心が穏やかだ。  恋人らしくなったという事だろうか、こんなにも凪いだ心でセックス出来るなんて。 「……すき……」 「オレもだよ」  慈しむような瞳で優しく笑う樹。不意に泣きそうになり、慌てて抱き付いて誤魔化した。

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