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【ご褒美】(3)
アトラクションを決めて並ぶ2人。
平日ということもあってか、待ち時間もそこまで長くないようだ。
可愛らしいケースに入ったポップコーンを凪にも勧める紅葉。
1口食べて凪は驚く。
「あ? …何この味…!甘…っ!」
「ソーダ味!
いろんな味があるんだよ。
次はカレーにしよ?」
「またカレー?(苦笑)
まぁ、いいよ…。
ってか連れてきただけで何も調べてなくてごめんな?全然分かんねーけど、なるべく紅葉が行きたいとこ回ろう?」
「ううん!
そんなの気にしなくて大丈夫!
一緒に来れて嬉しいし、
知らなくても楽しめるよ!
アプリもあるし!」
2人でアプリを見ながら行きたい場所を決めるのも楽しくて、オブジェの前で写真を撮ったり久々にデートらしいデートを楽しんだ。
「へぇー…別料金を払えば並ばずにアトラクションに乗れんだ…。
あ、夕食ここでいい?予約出来るって。」
「…素敵だねー。でも高いよ?
あ、ちょっと…!お金払うの?」
「問題ない。」
普段大きなお金を使うこともないし、今日ぐらいは贅沢しようという凪。並んでいる間に身バレして騒がれるのも避けられるしと言うが、倹約家の紅葉はその金額に戸惑っていた。
そして少し考えて、2人が楽しめるようにと提案する。
「じゃあこれは絶対乗りたいから…お願いします。こっちは待ち時間そんなにないから並ぼう?で、英語とドイツ語でお話しよ?」
「なるほど。じゃあやってみるか。」
みんなそれぞれパークを楽しんでいて、話し掛けてはこないまでもどうしても目立つ2人なので、会話から気付かれることもある。
なるべく名前は呼ばないようにしたり、小さな声で話したり、簡単な手話を使ったり…ちょっとした工夫で乗り切ることにした。
「これ乗ったら休憩しよう?
人も増えてきたし…。
珈琲のお店が近くにあるみたいだよ!
あ、あとでお土産も買っていい?」
「いいよ。」
凪もジェットコースター系のアトラクションは思ったよりも楽しめたようで途中休憩を挟みつつ、パークを楽しむ2人。
夜のパレードを見て、お土産も買って、夕食も楽しんだ。
「はぁー!
めちゃくちゃ楽しかったっ!」
「良かった。
けっこう歩いたよなー。」
「うん!
おやつもご飯も美味しかった!
あ、凪!最後に写真撮ろうー!」
「ん。
じゃあ…帰ろうか。」
閉園時間になり、名残惜しそうにパークを振り返る紅葉。
「紅葉ー?
…また来よう?」
「…うん!」
仲良く手を繋いで駐車場を歩く。
周りにはたくさんの家族連れやカップル、友人たちのグループの姿も。
みんな疲れの中にも幸せそうな顔をしている。
でも男同士のカップルは自分たち以外には見当たらない…。
まるで夢の魔法が解けるかのようになんとなく、マイノリティを感じる瞬間だった。
車に乗り込むと出口まで渋滞していて…
「あ、まさかのここが渋滞するのか…(苦笑)」
「凪…!」
「んー?眠かったら寝てていーよ?」
「ううん。大丈夫…!
あの…っ!連れてきてくれてありがとう。
また1つ、夢が叶いました。」
紅葉は改めて凪にお礼を伝えた。
「そっか。…どういたしまして。
俺も楽しかったよ。
ご褒美とか関係なく、普通に楽しめたし。
紅葉がいろいろ考えてくれたからだと思う…。こっちこそありがと。」
「凪…っ!
良かった…っ!
ねぇ、ここ出るまで夢の国だよね?
だから聞き流してくれていいんだけど…僕ね……!新しい夢が出来たよ。
…いつか家族と来てみたい。
あ、ドイツの家族じゃないよ?えっともちろんそれも良いんだけど…っ!
なんかね…そう思って。
えっと、違うの!
すごーく楽しかったんだよ?
凪と一緒に来れて嬉しかったし、お家には平ちゃんと梅ちゃんもいて、大好きなお仕事も出来て、今日も今日以外も毎日幸せ!
ファミリーもいっぱいで…見てると微笑ましくて…楽しそうだなぁって思ってたけど、んー…なんか羨ましくなって……。
それは…今日が初めての複雑な感情…。」
紅葉はたどたどしくも懸命に説明しようとしていた。
「…そっか…。
あぁ、分かるよ。
…うん。家族…か…。
それもいいかもな。」
凪は優しく答えたのだった。
END
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