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第1話 煙

遠いどこかで、空へと昇っていく煙を眺め 硝子は足を引きずるように廊下を進んだ。 短く浅い自分の呼吸の音を聞きながら、 誰かが死んでしまったのか 或いは、不要なものを燃やしているのか。 と考えた。 自分も不要なもののように燃やされてしまうに違いない。 それはそれで、何もこの世に残さないでいけるなら良いのに、とか 小難しいことを考えるのは嫌いではなかった。 やがて見えてきたのは、廊下の突き当たりの保健室。 同じ校舎内にあるとはいえ、 保健室に用があるものでなければ誰も近寄らないような、 学校のはずれに位置する場所だ。 ドアをノックしたがなんの返事もなく 仕方なくドアノブを回し、中の様子を伺った。 明かりの落ちた室内には人の気配はない。 よかった。 硝子はそう思いながら心置き無く保健室へと足を踏み入れた。 白いカーテンが静かに窓辺に佇んでいて、 ドアを閉めると部屋は世界から切り取られたように無音になる。 「....はぁ..」 安心したら、急激に頭が痛み身体の重さに耐えられなくなる。 あともう少し、と言い聞かせ部屋の中を見回した。 使っていなさそうな机、静かに開けられるのを待つ薬棚。 壁際にベッドが三つ並んでいて、 一番向こうのベッドはカーテンがかかっている。 ふらふらする身体を抱きかかえるように進み、入り口に一番近いベッドに倒れこんだ。 ノリで固められたシーツに沈むように硝子は目を閉じた。 重たい。 身体が重く、息がうまく吸えない。 頭がふらふらする。 世界がひっくり返ってしまいそうに。 そんな不調を感じながら、 眠りの世界へと落ちていった…。 ........。

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