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第2話 保健室の眠り姫

静かな保健室内にカシャンと勢いよくカーテンを開ける音が響いた。 ついに。 ついにこの時が来た。 と言わんばかりに伊積恭介は両手を握りしめた。 茶色く染めた髪と沢山のピアス、 着崩された制服はいかにも授業をサボっている不良生徒だったが この男子生徒、伊積恭介の目的は、ただ1つだった。 彼はベッドの上に正座したまま 二つ隣のベッドで眠っている生徒の姿をじいっと見つめる。 2つ隣のベッドの上には、 ボサボサの黒髪がシーツの上に乗っかり、 うつ伏せに倒れ、眼鏡がその横に投げ出されている。 布団を被ることもなく、上靴も片方は床に落ち片方は足から脱げかかっている。 まるで死体のような寝姿であった。 「雛瀬先輩...」 心臓がドキドキとうるさく脈打っている。 恭介はペシペシと自分の片頬を軽く叩き、 ベッドから飛び降りた。 一先ず彼の眠るベッドの横を抜け保険室のドアへと近寄り鍵を閉めた。 かちゃりと冷たい音が静かな室内に落とされる。 恭介は勢いよく振り返り、 1ミリも動くこともなくベッドに身体を投げ出している少年に近付いた。 一見死体のようでもあるが耳をすますと小さな寝息が聞こえてくる。 焦る気持ちを落ち着けせながら、 まずは靴を脱がせてやり床に綺麗に並べておいた。 「...ふう」 一息入れてそっとその身体に触れる。 起きませんように、と祈りながらゆっくりと彼の身体をひっくり返した。 華奢な身体は軽く、人形のように意のままに操られ きちんとベッドに仰向けで寝かせてやり、 ついでに両手を胸の上に置いた。 長い前髪を掻き分けると、瞼はしっかりと閉じられていて起きる気配はない。 恭介はようやくこの少年を自由にできる空間を作り出せたのだということに感動を覚え、 目から溢れる涙を拭ったのだった。 「....ああ…可愛い…雛瀬先輩…」 その寝姿を見つめ、思わず素直な感想が溢れてしまう。 細くて黒い髪、白い肌、人形のように細くて長い指 骨格も、呼吸も、恭介の眼には彼の存在の全てが完璧で美しく映っていた。

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