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第12話 不可解な後輩

朝言われた、好き、という言葉を思い出して 硝子は複雑だった。 この世の中は広くて、確かにそういう、 同性が好きな人もいるのだろうけど。 性別以前に自分は人間的に好かれる要素を持ち合わせてはいないし そういうものとは無縁に生きてきたからどうしたらいいのかがわからない。 出来れば他人と関わりたくない、 関わるべきじゃない。 そう思って生きているから。 硝子はぎゅっと鞄を握り締めてどうしたら逃げられるかを考えていた。 「...雛瀬先輩どうして怒らないんですか?」 「.......怒る理由がないよ..」 「怒る理由しかないと思いますけど...」 恭介は複雑そうな顔をしていて その横顔は自分のような人間が見てはいけない美しいもののような気がして、 ちらりと見上げては俯くのを繰り返すのだった。 「あの...本当に気にしないで..なんとも思ってないから..」 「あれ、そうなんですか? ちょっとは、なんとか思ってくれてるのかと思ったんですけど」 「なんとかって..?」 「...俺のこといいなーとか..」 「......?」 「いや、いいですなんでもないです嘘ですごめんなさい」 恭介はなぜか顔を赤くしながらもそう言って首を振った。 一体、どういう意味なのだろうか。 伊積恭介という不可解すぎる男が硝子にとってはなんだか恐ろしくも不思議に感じるのだった。 「あの、とにかく俺は..先輩のこと傷付けようと思ったわけじゃなくて、本当に、 全然説得力ないですけど..えっと..」 彼にじっと見下ろされて、硝子は居た堪れなくて自分の足元を見下ろした。 「.....ごめんね」 彼がどうして謝るのか、 その理由もわからず硝子は首を横に振った。

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