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第13話 へんなひと
それから恭介はその話には触れず他愛のない話をして、
南町の住宅街まで並んで歩いた。
「あ、雛瀬先輩知ってます?あそこの広場の時計
たまに本当に鳩時計になるらしいんですよ
仕掛けのドアが開いた時、本物の鳩が飛び出すんだって
それを見た人は幸せになるーなんて言われてるんすけどね
隙間から入り込んじゃってるだけなんでしょうけど」
恭介の話には曖昧な相槌を打つことしかできなくて
そんな自分といて本当に楽しいのだろうかなどと考えてしまう。
「ちょっと、見てみたいですよね」
楽しいわけ、ないのだろうけど。
結局恭介は住宅街の入り口まで付いてきて、
もうここでいいからと硝子は必死に説得するのだった。
「..じゃあ、俺はここで。」
恭介はどこか不満そうに呟く。
そもそも彼の家がどこなのかはわからなかったが、
とりあえず硝子は深々と頭を下げた。
「うん...あの、ありがとうございました....」
「雛瀬先輩、一回だけ、ぎゅってしてもいい?」
「.......はい?」
思わず彼の顔を見上げてしまう。
彼の目は必死にも見えた。
一体どうして自分を抱きしめたいというのだろう。
戸惑っている硝子を結局恭介は引き寄せて宣言通りぎゅっと抱きしめてくる。
「....雛瀬先輩...」
耳元で囁かれるが、
抵抗する力もなく硝子はされるがままだった。
この人は一体なんなのだろう。
じっと固まっていると恭介の腕は離れ、
彼は嬉しそうに微笑んでいた。
「じゃあ、また明日学校で」
それだけ言うと彼は元来た道を戻って行ってしまった。
硝子は暫く呆然としていたが、
やがて自分も家路についた。
また明日、なんて言われたことがあっただろうか。
不思議と彼に包まれていた身体が暖かいような気がして、
硝子は自分の胸に沸き起こるじわじわとした感覚が
恐ろしくて唇を噛みながら歩いていた。
伊積恭介、くんは、変な人だ。
そんなことを漠然と思いながら。
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