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第14話 頭痛
次の日、硝子は無事上履きを靴箱から取り出し履くことに成功した。
高校に通うようになり昔よりこんな日も増えて来た。
みんな大人になっているという事なのだろうか。
喜ばしい事であるが、硝子は自分が変わりもしない事が
歯痒くも諦めに似た妙な気分で傍観しているのだった。
地獄のような日々とは
天国や楽園を知っている者しか感じることはできないのだろう。
そう思うと、楽園の住民は哀れな気さえした。
窓の向こうは雨が降っていた。
教室の中はどこかひんやりしていて、重たく、湿気が身体にまとわりついてくるようだった。
硝子は腕をさすりながら、自分の体調がどんどん悪くなっていくことに耐えていた。
頭が痛くて、重い。
大して力を使っていないのに、
筋肉がギシギシと音を立てて壊れていくようだった。
しかし授業は聞かねばならない。
どうにか鉛筆を動かしながら、ぐらぐら揺れる視界で必死に黒板の文字を追っていた。
この雨降りの毎日が終われば夏が来るんだと、他の生徒達は授業そっちのけでそわそわしている。
暑い夏も寒い冬も変わり映えなどしない毎日。
どうして都度都度、そうやって楽しめるのか硝子には理解ができないし
そうなりたいとも思うことができないのだった。
そうこうしていると頭痛を上積みするような鐘の音が響いた。
生徒達は喜びの声を零し始め、教室に喧騒が戻って来た。
「...よし、今日はここまで。
夏休み前だからって浮かれるんじゃないぞ〜
その前にテストがあるからな」
教師がそんな喧騒を切り裂くような大声を出し
生徒達は気の抜けた返事をした。
硝子は暫く動くことができなかったが、
やがてのろのろと教科書を机に押し込んで
決死の思いで立ち上がった。
「隣にお弁当たべいこ」
「今日テニスしようて言ってたのに雨とかまじないわ」
「それな」
「ねー昨日のさー」
ざわざわと教室は話し声で溢れかえる。
その声が頭の中に充満して、
爆発しそうにズキズキとした痛みに変わる。
硝子は生徒の波を掻き分け廊下に出た。
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