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第64話 悩み
それから恭介は度々調理部に乱入して、
クッキーやらマカロンやらを作っては図書室に持ってきた。
環先生も何故だか参加するようになり新聞部の手伝いは日常と化していた。
一週間に一枚できる新聞は、大量印刷され校内中に貼られては教師達に剥がされるが
茶々はめげずに校内を走り回っていて
硝子にとって放課後のその時間はとても大切なものになっていたが、
そのせいでいつもより帰りが遅くなってしまう事もあった。
その度に母親からは、不良だと当たられ少ない食事を更に減らされたり
顔も見たくないと物を投げつけられることもあった。
その事によって硝子は珍しく悩んでいて、
茶々の手伝いをすることも恭介のお弁当やお菓子をいただくことも
自分には、身の程知らずの行為なのかもしれないと。
皿の上にはレタスが一枚置かれ、お湯のようなスープが一杯。
精進料理のような夕食に、硝子はじっとそれを見つめて考えていた。
自分にはこちらの方がきっと合っている。
「真姫ちゃんもうすぐテストじゃないの?」
「うん。でも全然余裕だしぃ」
「そうねあなたが悪い点をとったことはないものね!それに比べて硝子は....」
硝子は、硝子は、硝子は。
母親は二人の子供と比べて硝子を詰る。
それを黙って聞きながら、
レタスを押し込めてスープを飲み干した。
環先生は、おしゃれな名前だと言って
茶々くんは毎回、綺麗な字だと褒めてくれる。
いずみくんは、いずみくんは.....。
そんな風に、褒められてしまったからなのだろうか。
今、すごく、心が痛い。
「......っ」
硝子は席を立ち、食器を洗ってしまうと部屋へと引っ込んだ。
暗い部屋の中にいると母親の声とみんなの声が交互に再生される。
悪いのは自分で、母が言っていることも正しくて
だけれどそれはみんなの言ってくれたことを覆してしまう。
みんな正しくて、優しくて
それなのに....。
硝子は抱えきれない気持ちにとうとう、泣いた。
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