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2.呼ばれた名は…
「んっ?」
隣で聞こえた微かな物音に気付いた篠田悠貴だったが、とりあえず、兄で生徒会長の悠斗に持って帰ってくるように頼まれた昨年の予算案資料を、生徒会室に隣接する資料室の本棚から探し出すことに集中した。
「あった、これか」
分厚いファイルを棚から取り出し、カバンの中にしまった悠貴は、ふと我に返った。
(そういえば、俺がここに来た時には生徒会室の鍵が開いていた…。でも、今日は日曜…)
剣道部の部活帰りに寄るように頼まれたため、悠貴は兄から生徒会室の鍵を預かっていた。
だが、今更ながらその鍵を使わず中に入ったことを思い出した悠貴は、隣の生徒会室から聴こえてくる微かな物音に緊張が走った。
わざわざ休みの日に生徒会室に用事がある生徒がいるとは思えず、不審に思った悠貴は、生徒会室に繋がるドアに向かって足音を立てないように近づくと、そのまま静かにドアノブに手をかけた。
『んぁっ…』
(えっ…この声…)
急に聞こえてきた喘ぎ声に驚いた悠貴は、思わず回しかけたドアノブから手を離しそうになるが、声の主の正体が脳裏を掠めると、慌てて音を立てないようにドアノブを元に戻し、代わりにドアに耳を当てた。
『あっ…そこっ…もっとぉ…』
(葵先輩…?)
声の主は、生徒会長の兄といつも一緒にいる、副会長の秋月葵の声だった。
『そこを、指でなぞって…。あっ…いいっ』
(あの、葵先輩が…)
悠貴が初めて葵と会ったのは、兄と廊下で偶然会い、弟だと紹介された時だった。
簡単な挨拶の言葉を交わしただけだったが、その時、名前で呼んで欲しいと、美人でありながら気さくに笑う葵の顔があまりに綺麗で、悠貴は一目で恋に落ちた。
あれから半年ほど経っているが、自分から話しかけることも出来ず、悠貴はただ毎日、剣道場から生徒会室の窓を見上げては、兄と楽しそうに話す葵を見つめることしか出来なかった。
そんな葵が、今、このドアの向こうで一体何をしているのか、悠貴は想像しただけで、どうしようもなく胸が高鳴った。
(葵…先輩…)
『ねぇ、見て…。はしたない、俺を見て…』
悠貴はドアから耳を離すと、音を立てずにドアをわずかに開け、その隙間から生徒会室を覗き込んだ。
(えっ!)
視界に飛び込んできた葵の後ろ姿に、悠貴は思わず息を吞んだ。
窓際に置かれた生徒会長用の重厚な作りの机の上に葵は腰かけていたが、下半身は何も身に纏っていなかった。
しかも、いつも悠人が座っていると思われる椅子に向かって足を大きく開き、身体を仰け反らせていた。
「アッ…もっと…」
カーテンが締められているため、窓の反射もなく、葵の正面の姿は悠貴からは見えなかったが、葵の身体は小刻みに揺れながら、絶え間なく喘ぎ声を漏らしており、一人で何をしているかは明らかだった。
いつも見上ていた生徒会室の窓に向かって、葵が足を開き、乱れた恰好をしていると想像した悠貴は、今までに感じたことのない興奮を覚え、身体が熱くなった。
だがその熱は、葵の甘い吐息とともに漏れ出た一言で、別のものに変わった。
「あっ…悠…。悠、見て…」
(悠…?それって、兄さんの…こと…)
悠貴は肩に掛けていたカバンを、無意識に床に落としてしまった。
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