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3.名前…

「だ、誰だ…!」 「…」 「えっ?悠…」 葵はハッと口元を片手で隠すように押さえたかと思うと、そのまま慌てた様子で机に置かれていた自分のズボンと下着を手に取り、着替え始めた。 その様子を、悠貴はまるで時間が止まったかのように、ただ黙って見つめることしか出来なかった。 「篠田…。今見たことは、忘れて…」 今にも泣き出しそうな声で、葵は悠貴とは目を合わせようとせず、ぼそっと呟いて、着替えを続けた。 その姿に、悠貴は自分が葵の目に映っていないのだと思い知らされ、どうしようもないほど、胸が締め付けられた。 「葵…先輩…」 「気持ち悪いよな…。ごめんな、こんな…。でも、頼むから悠斗には…」 離れた位置に立っている悠貴にも分かるほど、葵は唇を震わせていた。 唇が震えるほど怯えている理由が、自分が今、目の前で見てしまった出来事を兄に話すと思われているからだと悟った悠貴は、思わず苛立ちを覚えた。 すると、いつもは冷静な悠貴は、考えるより先に足が勝手に葵の元に向かっていた。 兄が毎日座っている、葵が先ほどまで足を開いて淫らな姿を向けていた椅子を、悠貴は乱暴に押し退かすと、椅子の代わりに葵の目の前に黙って立った。 「篠田…」 ズボンは履いたものの、ネクタイとシャツはまだ乱したままで机の上に座っている葵は、さきほどよりさらに震わせた唇で、兄のように名前ではなく、悠貴のことを苗字で呼んだ。 悠貴は今までに感じたことのない苛立ちをぶつけるように、葵の顎を片手で掴み自分に向かせるように軽く持ち上げると、強引に葵の唇に自分の唇を重ねた。

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