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4.その目に映るのは…

たった数秒の、唇を重ねただけのものだったが、悠貴は名残惜しむように、下唇、そして上唇と、順番に少しずつ葵から唇を離した。 唇を離し終えた悠貴の目に映ったのは、葵の驚きを隠せないといった表情だった。 「なんで…キスなんて…」 そう呟きながら、呆然と悠貴を見上げてくる葵の目に、今は自分だけが映っていることに悠貴は気付くと、胸が高鳴った。 だが同時に、本当に葵がその目に映したい人は別にいるのだと思い知らされた気がして、悠貴はすぐに目を逸らさずにはいられなかった。 「あっ…」 葵はまた何かを言いかけるが、自分の手を強く握りながら俯き、何も話さなかった。 「葵先輩は、兄さんと付き合っているんですか?」 (だから、ここに兄さんが座っていると思いながら…) 「違うっ!俺は…」 首を横に振るが、葵はまた俯くだけだった。 (もっと…。もっと、この人の目に俺を映したい。兄さんではなく、俺を…) 自分の中に、先ほどの訳の分からない苛立ちに似た感情がまた溢れ出そうとしていることに気づいた悠貴は、咄嗟に思いついたことを口にした。 「それじゃあ、葵先輩は、さっきみたいに見られていると思いながらするのが、好きなんですか?」 「えっ…?」 「俺も…なんですよ」 悠貴はきつく握られた葵の手に、自分の手をそっと這わせるように重ねた。 「こうやって直に触れるより、見ている方が好きなんです」 「ゆ…篠田…」 重ねられた悠貴の手を、葵は払い除けることはしなかった。 悠貴はそれを確認すると、ゆっくりと葵の耳元に顔を近づけた。 「ねぇ、先輩…。さっきの続き、見せてくださいよ。俺、すごく興奮しました。でも、俺ならもっと…先輩を気持ちよくしてあげられますよ?」 優しく囁くように葵の耳元で告げると、葵の身体は微かにビクッと動いたが、悠貴が重ねた手は、それでも払い除けられなかった。 「篠…」 「さっきみたいに、悠って呼んでください」 (本当はあなたの目に、俺が兄さんとして映っていたとしても…) 「ね、葵先輩。せっかくだから、楽しみましょ?」

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