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第29話 エピローグ

「セックスって、本当に、どうしたらいいんですか」  裸で横たわったまま、純平が問いかける。  頬を染め、羞恥をこらえるように、ぎゅっと口をひきむすんでいる。しかし体のほうは素直で、大介が肌に唇をそわせるたびに、ひく、と敏感にどこかがひきつった。  その反応を楽しむように、ゆっくりキスを落としていく。どこもかしこも、自分のものだと主張するように。 「なにもしなくていい。今はこうして俺を感じてるだけでいいよ」 「で、でも、そういうのを、マグロっていうんですよね」 「うん。特上マグロを俺は味わってるところなんだよ」  そういって、右手を挙げさせた。もりあがった胸筋のわきに、ちゅ、と吸い付くと純平は、もじっ、と両足の膝をすりあわせた。一方的に愛撫されているのは、やっぱり落ち着かないらしい。  さっきまでやさしく抱擁して、理性をとろかせたはずだったのに、純平はもう「セックスとは?」という問いに模範解答を出そうと頑張っている。 「大介さん、マグロ好きですか」 「そうだね、将来マグロ以外も楽しみたくなるかもしれないけど、今はこれがいい。怖がらずに俺に身をまかせてくれてる感じがすごくいい」 「これで、いいんですか」 「そう。感じて、顔を見せて。声をきかせて」 「それだけで?」 「それだけで。純平だっていうだけで、俺には特別なんだよ」 「泣かさないで、ください」  純平が困ったように言う。その茶色の瞳がもうすこしうるんでいる。  大介はキスに集中した。腕、手の平、指の先。皮膚の柔らかい部分は、とても敏感だ。そして大介が唇で触れていくたびに、少しずつ熱を帯びていく。  大介の唇は、ゆっくり降りていく。脇を、腹筋の影のできる部分を。へこんだ臍を。  くすぐったいのか、純平が、かすかに笑う。 「セックスって、こんな簡単なことだったんですね」  そう言って、自分の腹の上にある大介の頭に触れた。 「もう触っていい?」  大介は純平のペニスに触れた。若い芽吹きそのもののように勢いよく存在を主張して、先を濡らしている。  純平は小さく首をふった。 「やだ。キスしてから」 「キスしてる」 「口にです」  大介は体を起こして純平を見下ろした。なめらかな裸体にたくさんキスの痕をつけて、くったりと目を閉じている。  片方の足首を持って、足をひらかせた。  あ、と抗議のする小さな声があがる。  大介はつま先にキスをした。足の指一本一本に。純平はきゅっと体をこわばらせる。足の甲に、そしてふくらはぎに。膝の裏をくすぐって、内股へ。両方の脚を愛してから、膝を立てて大きく開かせた。  ああ、と純平が深い吐息を吐いた。  濡れそぼった彼のペニスがせつなく反り返っている。純平にこんな恥ずかしい恰好をさせていることに大介も興奮していた。 「……ください、もう。おかしくなっちゃう」  大介は、そこまで純平の理性を溶かして、はじめて潤滑剤の瓶を手に取った。透明な粘液を手の平のくぼみに出して、しばらく体温であたためる。  ゆっくり塗り伸ばした。熱くそそり勃ったものと、その下のひんやりしたふくらみ、下半身の真ん中の線をゆっくりと尻まで撫で下ろしていく。 「ゆっくりするから」  わななく純平の唇に、一度キスをした。  唇の隙間からちらりと出された舌が、貪るように大介を招き入れる。彼も深く大介を受け入れたがっている。それを知って、大介も急く気持ちを必死でおさえた。  時間をかけて慎重に中に触れる指を増やしていった。人差し指、中指、薬指。純平は体の力を抜いて受け入れている。それどころか、ときどき甘い声をもらしはじめる。彼のペニスもあいかわらず硬く怒張したままだ。  大介は安堵していた。彼をうまくリードできているらしい。 「大丈夫? これ、いいの?」  熱にうかされたような顔で大介を見る純平に、やさしくささやく。 「……僕、このままされてると、大介さんの指が好きになっちゃいそうです」  大介はくすりと笑った。 「痛くない?」 「体を、開いてて……こんなに痛くないの、初めてなんです」  そう言ったとたん、純平の瞳には泉が涌くように、透明の膜が張った。 「本当はこうなるの恐かった?」  小さくうなずく。大介はきゅっと胸がしぼられるような甘い痛みを味わう。純平はトラウマがあるにもかかわらず、自分とのセックスに勇敢に挑んでくれたのだ。 「そろそろ、最後までいいかな?」  コンドームをつけて、彼の中にわけいった。  純平は目を閉じ、かすかな声をあげてのけぞる。一瞬背中に鋭い緊張が走った。なだめるように大介が口づけると、またゆっくり弛緩していく。キスをすると恐怖心が消えるようだ。  引き裂かれるような痛々しい感触はなかった。今度は熱く、うねるような感触で受けとめてくれた。  大介もたまらず、低くうめいた。彼の中が脈打つようにしめつけて、自分の体も今まで感じたことのない深い快楽に誘い込まれていた。 「つながった」  純平は、おそるおそる目を開けて大介を見た。 「あ、すごい。ほんとうに」  大介は純平の手を、結合部分に導いた。 「ほら」 「あっ……」  純平の顔が羞恥で真っ赤に染まる。 「……うれしい。僕の中に大介さんがいる」  もりあがった涙の膜が破れて左右にこぼれ落ちた。  大介はゆっくりと抽送した。  純平が身もだえするように、体をよじった。 「あ、もう中がいっぱいで、どうしていいかわからないよ」 「気持ちい?」  純平は、ちょっとにらむように大介を見た。目のふちが赤くそまって艶めかしい。  それから、観念したように、こくん、と無言でうなすいた。 「いっぱい声、聞かせてくれる?」  大介はゆっくり腰を使った。  純平はもう我を忘れて、せつなく喘ぎだした。  大介は泣いてしまいそうに幸福だった。  このままひとつになろう、そう考える。  彼からもうためらいもなくこぼれだした、愛の言葉をシャワーのように浴びながら。そしてそれ以外もう考えられなくなっていった。 了

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