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第29話
それから一週間後、カブ太はカブ子の元へ旅立ってしまった。
いつもみたいに飼育ケースの隅っこでじっとしてるのか、生命を終えてるのか判断がつかないくらい静かな最期だった。
口元が微かにでも動かないかと、カブ太の名前を呼んでみたり、飼育ケースをつっついてみたけど反応はなかった。
カブ太が亡くなったのはカブ子と同じくらい悲しいはずなのに、カブ子の時ほど泣けなかった。
悲しみに慣れてしまっていた自分が悲しかった。
『カブ太は湊世 が心を込めてお世話をしたから寿命を全うできたんだよ。泣けないのは湊世の心が冷たいからでも、死に慣れた訳でもない。カブ太との毎日を大切に過ごして、悔いが残るお別れじゃなかったからだよ』
優しい紘斗 さんはそう言って励ましてくれた。
お互いに表情はわからないし、言葉も通じない。
上手くコミュニケーションを取れていたのかも謎だけど、カブ太やカブ子が俺たちの家に来てよかったって思ってくれたら、すごく幸せ。
カブ太の体は、先に眠ってるカブ子の植木鉢に一緒に埋める事にした。
土を被せる時、カブ太との楽しかった毎日があれこれ思い出されて涙があふれてきた。
精いっぱいお世話をしたけど、お別れの時はやっぱり悲しくて淋しかった。
「ありがとう、カブ太。楽しかったよ」
愛し合う2匹は久しぶりの再会を喜んでいるのかな。
また、仲良く寄り添っているのかな…。
こんなに小さな体で、こんなに短い生命で、カブ太とカブ子は俺に愛と生命の尊さを教えてくれた。
いつ別れが訪れるかも知れないから、側にいてくれる大好きな人を全力で愛する事。
いつ生命が尽きるかもわからないから、毎日を悔いなく生きる事。
「カブ太、カブ子安心してね。カブキッズは紘斗さんと俺が大切に育てるからね」
2匹が眠る植木鉢に声をかけると、紘斗さんがそっと肩を抱いてくれた。
「カブ太、カブ子…安心して眠ってね。君たちの大切な湊世は俺が一生をかけて大切に愛していくからね」
約束するよ…と、囁く紘斗さん。
カブ太とカブ子に優しく語りかけてくれた紘斗さん。
内容もだけど、言葉の優しさの中に強い決意が感じられた気がした。
感動した泣き虫の俺はまた泣いてしまった。
「俺も…俺も約束する。ずっと紘斗さんを愛していく。紘斗さんと一緒に幸せになるから…だから、見守っていて…」
そっと植木鉢を撫でると、紘斗さんがその手を握ってくれた。
「嬉しいよ、湊世。ありがとう」
「俺も嬉しい。ありがとう、紘斗さん」
俺を抱きしめる紘斗さんの腕の強さが嬉しくて、俺もぎゅっと抱きしめた。
手を伸ばさなくても与えられる愛する人の温もりが幸せでたまらない。
手を伸ばせば受け入れてくれる愛する人の優しさが尊い。
何があっても紘斗さんを離さないし、離れない。
これから先、ずっと紘斗さんと一緒に生きていく。
「湊世、カブ太とカブ子に誓おうか」
「うん…紘斗さん…」
大切なカブ太とカブ子の前で永遠の愛を誓うなんて結婚式みたい。
何だか急に恥ずかしくなってうつむいてしまう。
「愛してるよ、湊世…」
大きな紘斗さんの手が頬に触れる。
ゆっくり顔を上げると、紘斗さんの頬も赤かったし、瞳も潤んでいた。
紘斗さんも俺と同じなんだ…。
「俺も…紘斗さんを愛してる」
俺たちは微笑み合いながら、大好きなカブ太とカブ子の前で誓いのキスを交わした…。
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