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第28話
カブ子とのお別れから1か月がたった。
少しずつ悲しみも癒えてきて、2人とカブ太、カブキッズとの生活にもすっかり慣れた。
最近は飼育ケースの中で動くカブキッズを見るのも楽しみの一つ。
基本的に土の中にいるから、いつも見える訳じゃないけど、時々ケースの隅っこに姿を見せてくれる事がある。
見る度に少しずつ大きくなってきてる気がして嬉しい。
カブ子が生命を終えたから、カブ太とのお別れの時も近いのかな…と思っていたけど、カブ太は長生きさん。
さすがに脚が弱ってきて、ひっくり返ると起き上がるのが大変そう。
元気な時は落ち葉や木に足をかけて起き上がっていたけど、今はもうそれも難しい。
脚力が落ちてきたから、些細な段差も乗り越えられないし、土にも潜れなくなった。
ひっくり返ったままだとストレスになるらしいから、何とかしてあげたい。
紘斗 さんと相談して、少しでもカブ太が快適に暮らせるよう、落ち葉や枝をケースから取り出して平地にしてみた。
大きくなってきたカブキッズが土の中を動き回る時に、うっかりカブ太にぶつかると危ないから、飼育ケースをもう一つ買ってきて、カブ太はお引っ越し。
あまり動かなくてもカブトムシゼリーが食べられるように等間隔に2〜3個並べた。
「おはよう、カブ太。カブキッズ」
最近はいつもより早起きをしてカブ太の生存確認とおしゃべりをする。
時期的にいつ生命の終わりを迎えてもおかしくないから、少しでも側にいてあげたい。
どうか生きていて…。
毎朝ドキドキしながら飼育ケースをのぞき込む。
今朝は飼育ケースの隅っこでじっとしていたから、一瞬ドキッとしたけど、よく見たら口元が動いていた。
「ねぇ、カブ太…本当はカブキッズと暮らしたい?」
いくらカブ太の安全のためとは言え、勝手に子供たちと引き離してしまった事がずっと心に引っかかっていた。
もし紘斗 さんが先に逝ってしまって…、2人の間に子供がいたとしたら、俺なら一緒に暮らしたいって思うから。
俺にカブトムシ語がわかったら、カブ太の望みがわかるのに…。
「湊世 、やっぱりここにいた」
寝起きなのに、寝癖一つついていない爽やかな紘斗さん。
いつ見ても完璧なほど整ってて、本当に漫画から飛び出してきた人みたい。
「おはよう、湊世。カブ太もカブキッズもおはよう」
紘斗さんは後ろからぎゅっと抱きしめて、頬にキスをしてくれた。
「おはよう、紘斗さん」
俺からも頬にチュッとキスをする。
「湊世は今朝の卵…どうする?」
「ん…ハムエッグが食べたい」
「いいよ。待ってて」
「あ、俺も一緒に…」
「大丈夫。カブ太とのおしゃべりタイムを楽しんで」
今度は唇にキスをしてくれた紘斗さんは、優しく微笑んだ。
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