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第8話

 数日後。  会社帰りに、持田と並んで歩く武蔵を見かけた。  うまくいけばいいと思う反面、瞬の中でモヤモヤしたものが渦巻いていた。  ちゃんと持田は武蔵の内面もきちんと見てくれるのだろうか。見た目だけはイケメンにはなったが基本、中身はヘタレだ。こちらでリードしてやるのがあいつにとったら居心地がいいはずだ。それから、食事の好き嫌いも多い。野菜を上手く取り入れた食事じゃないと野菜を食べないような子供っぽい所や、着た服を脱ぎっぱなしにしたり何日も同じシャツを着たりと、だらしない所もある。  そんな武蔵の事を面倒くさがらず、受け止めてくれるだろうか。  そして童貞の巨根でも、引かずに受け入れてくれるのだろうか。 (俺なら、武蔵の全てをわかっているのにな……)  そう考えが過ぎったが、その考えを打ち消すように瞬は頭を振った。  きっと二人が付き合うのも時間の問題だろう。  実際二人が付き合い始めたら、セックスの相手をしろ、と言わないだろう。セックスがしたいが為に武蔵を改造したはずだったが、今となっては《好きな相手とのセックス》という武蔵の想いを汲んでやりたいと思い始めていたからだ。 その対象が自分ではない、という事実に思いのほか、自分が傷付いていたとしても。  前のように突然家を訪ねる事もなくなり、一切の誘いをやめ、瞬は少しずつ武蔵との距離を置き始めた。いざ、持田と付き合うとなった時、自分が邪魔になると思ったからだ。きっと持田も自分が武蔵にベッタリしていたら、いい気分はしないはずだ。  自分と距離をとり始めた瞬に、武蔵は戸惑っているようだった。  瞬は評判の良さそうな、ゲイ専用の出会い系サイトに登録した。  当初の目的である男同士のセックスへの好奇心と、少しでも気を紛らわせたかった。 『当方ノンケで、後ろに興味あり。ネコ希望。割り切った付き合いをしてくれる方』  そうメッセージを登録して、返事がなければ諦めようと思った。  日曜日の夜、瞬は出会い系で知り合ったユウという人物と待ち合わせるまで漕ぎ着けた。  相手は三十六歳の既婚者。既婚者の為、後腐れなく体だけの関係と割り切ってくれる相手を募集していた。自分にぴったりだと思った。  ユウはとても優しく紳士的な男だったが、ユウのいきり勃った下半身を見た瞬間、どうしようもない嫌悪感が襲った。そして終始、武蔵の顔が頭から離れなかった。  結局、ユウとはできなかった。  武蔵の時は一切の嫌悪感はなかった。むしろ躊躇う事なく口での奉仕までした。  なのに、なぜユウはダメで武蔵なら大丈夫だったのか。  深く考えずとも、答えは出てしまった。  ユウとはホテルで別れた。  何度も謝罪する瞬にユウは、 「大丈夫、気にしないで」  と言ってくれた。 (ユウさん、いい人で良かった……)  瞬はすぐに出会い系サイトを退会した。自分には無理だとわかったからだ。  愛がなくてもセックスはできる、ずっとそう思っていた。だが、気持ちの伴わないセックスほど虚しいものはないのだと、受け身の立場になって知った。  武蔵とだからしたいと思ったのだ。  そんな気持ちに今更気付いた所で、どうする事もできない。武蔵も自分も男で、武蔵は別の人を好きなのだ。武蔵は好きな人としかしないと決めている。自分は一生、武蔵に抱かれる事はないのだろう。

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