7 / 12

第7話

 瞬はそのまま頷きそうになったが、ハッと我に返ると武蔵の頭に手刀打ちを炸裂させた。 「いたっ!」 「調子に乗んな!」 「だって、榛名さんが口説いてみろって言ったんじゃないですか」 「や、やり過ぎだ! アホ! 誰がそこまでしろって言ったよ! 普通、フリだろ!」  武蔵は困惑してように眉を八の字にしている。 (武蔵のくせに! 童貞のくせに! あんな、あんな声で言葉攻めとか反則だろ……! )  武蔵の美声に動揺しているのか、今も大きく鳴っている心臓の音が頭にまで響いているようだ。  瞬は気持ちが沈めるのを待った。目の前ではまたも床に正座をしている武蔵。  その沈黙に耐えかねたのか、 「調子に乗って、すみませんでした」  と、額を床に付けた。 「童貞のクセになんでキスに慣れてんだよ」  怒りはまだ収まりきってはいなったが、妙に手馴れたキスに疑問を持った。 「童貞ですけど、彼女いた事はありましたから」 「そうなの⁈じゃあ、なんで童貞⁈」  意外な告白に瞬は目を丸くした。  武蔵は一度口を開け、何か言おうとしたがまた口を噤んだ。 「言えよ」  切れ長の目を細くし、正座している武蔵を見下ろした。 「挿入前までは経験済みです。でも、いざ挿れる時になると、彼女が……股間を見て怯えるんです」 (だろーな)  確かにアレを見れば、怯える気持ちも無理はない。 「泣かれた事もありました。怯えられたり、泣かれたりしたらさすがに……」  そこまで言って、武蔵は言葉を切った。これ以上は察してくれ、という事だろう。 「なんか……うん、ごめん」  なぜか、無性に武蔵が可哀想に思えてきた。 「そんな謝られたら、俺、逆に惨めです!」  そう言って、武蔵は床に顔を突っ伏した。 「ほら、持田さんは受け入れてくれるかもしれないだろ? まぁ……頑張れよ」  ポンっと武蔵の肩を叩いた。 「そんな気休めの言葉、いりません!」  瞬の一言で、余計に武蔵を惨めにさせてしまったようだ。 (俺なら速攻、挿れさせてやるのに)  いつもなら、それを口にしていたはずだったが、なぜか今日は口にできなかった。

ともだちにシェアしよう!